伝統工芸「輪島塗」とIT技術のコラボレーション

HHKB Professional HG JAPANの開発に当たり、PFUは日本を代表する塗り物「輪島塗」の技術を求め、石川県輪島市の大徹漆器工房とパートナーシップを結びました。大徹漆器工房は、伝統的な輪島塗の技術を今に受け継ぎながら、精力的に塗り物の普及に努める工房です。漆頭である八井汎親氏は、この意外なコラボレーションにチャレンジした理由を、こう語ります。

「キートップは毎日、手で触れるものですから、漆の特性が活かせるのではないかと考えました」

漆の特性とは、まず抗菌性が極めて高いこと。塗り物の器に入れた料理が日持ちすることを、私たちは経験的に知っています。次に、吸湿性があると同時に熱を伝えにくいこと。ご飯をふっくらと、鰻をカリッと香ばしく保ち、しかも手で持っても熱くない塗り物の重箱は、一流の鰻店の多くが使用しています(そのほとんどが輪島塗だとか)。そして第三に、丈夫で耐久性が高いこと。漆塗りの器や調度品は、何代にもわたって受け継がれることが珍しくありません。

このような特性を有する漆は、実用性に富んだ高機能のコーティング剤として、長い日本の歴史の中で常に私たちの暮らしを支えてきました。そして、欧米で「JAPAN」といえば漆器を意味するように、漆は現在、世界中に広まって高い評価を得ています。

こだわりの精製漆で何層にも塗り重ねる

HHKB Professional HG JAPANのキートップは、日本産の良質な原液を精製した漆で、何層にも塗り重ねられます。大徹漆器工房は漆の精製を、輪島市の無形文化財に指定されている「天日黒目」の技法で行っています。天日黒目とは、真夏の太陽の光によって生漆を精製する方法で、炎天下に人力のみで櫂を操り、生漆を撹拌して、漆の粒子を細かくしていくという大変な作業です。電熱と機械を利用して漆を精製する技術が広まった現在も、大徹漆器工房だけは重労働をいとわず、伝統的な天日黒目にこだわり続けています。

天日黒目によって丁寧に精製された漆は、黒みがかった美しい透明。この漆で下塗りを施し、その上に有機顔料で着色した赤い漆を重ね、仕上げに再び透明な漆。それぞれの塗りは数回ずつにわたり、さらに、上に塗る漆が定着しやすくなるよう一回ごとに研ぎを入れるという、気の遠くなるような作業が続きます。

そして最後に、キートップには純金の粉が篩い落とされ、ほんのりと雪化粧したような仕上がりに。これは金に漆を吸収させることにより、キートップのカドの稜線部分に漆を定着させるため。

「この漆と金のように、有機的なものと無機的なものを混ぜて利用する高度な技術が、日本には昔から存在しました。IT機器も無機的なものですが、そこに漆が入ることによって、また別の存在価値が生まれるのではないでしょうか。ところで、輪島塗は伝統的に、裏側も手を抜かずに塗ってきました。そのこだわりの積み重ねによって、日本一の産地といわれるまでになったんです。このキーボードも、裏面を鏡面仕上げにしているでしょう。普段は見えないところに力を入れる、つまり羽織の裏にお洒落をするような『粋』の感覚を持った製品であるところに、輪島塗との共通点というか、ご縁を感じますね」(八井氏)

HHKB Professional HG JAPANの漆塗キートップは、伝統工芸とITという、日本が世界に誇る最高水準の技術同士の出会いから生まれた、まさに逸品といえるでしょう。