小串様のコメント
米国Teletype社のテレタイプ・モデル3320(通称ASR-33)のキーボード
テレタイプの話をしはじめると1冊の本ができてしまいそうなので、チョ・ビットだけコメントします。なお、テレタイプは米国Teletype社の商標であって、一般名詞はTeleprinterです。日本語では印刷電信機で、国際電電などでは「印電」(いんでん)と呼んでいました。
キャリッジ・リターン・キーとライン・フィード・キーは独立しています。「キャリッジ」とは印字ヘッドとインク・リボンが合体した部分を搬送する機構のことです。
現在のパソコンでは見かけないキーがいくつかあります。
WRU?:Who are you?キー
HERE IS:あらかじめ機械的に記憶してある自局名を送信する.
RUB OUT:紙テープにNULLコードを上書きして鑽孔し,間違った文字を消します.
REPT:repeatキーです.これを押しながら文字キーを押すと,その文字が繰り返し入力されます.このキーはApple][にもありました.
このマシンは、かつてNHKで放映された「新電子立国」でビル・ゲーツとポール・アレン役の子役が操作していたマシンそのものです。ホスト・コンピュータとしてPC9801NSを舞台裏に設置して20mAのカレント・ループ・インターフェースで接続し、N88BASIC(86)で書いたプログラムを動作させました。
なお、チーフ・ディレクタの相田さんが操作しているのは、モデル3310(通称KSR-33)に紙テープ・リーダーとリパーフォレータを外付けしたASRタイプです。
モデル33ASRに関するもう少し長いコメント
キーボードの操作は、キー・ストロークが長く、1文字ずつ深く押し込む感じです。1キー押すごとに「ズガシャッ、ズガシャッ」というメカが動きます。
リターン・キーの語源となったCarriage Returnキーは、プリント・ヘッドの台座を戻すという意味でした。ASR-33ではCarriage ReturnキーとLine Feedキーは独立しています。まさしく「復帰」「改行」だったのです。
ASR-33はコンピュータ端末用で、文字コードは8単位(8ビット)です。ただし、扱えるのは下位7ビットのASCIIコードだけです。また、プリンタは大文字しか活字がないので、小文字の文字コードは大文字に変換されます。ASCIIコードは、ASR-33のような機械式のデータ端末を考慮したコード体系・・・というより、元々モデル33の文字コードと制御コードだったのだろうと思います。これが業界標準となり、その後ANSI規格になったのでしょう。今となっては、どうしてASCII文字がこのようにマップされたのか、制御文字の存在理由やそのマップなど、電子式の感覚では不可解なことが多いと思いますが、モデル33の機械的構造や動作を知ると謎が氷解することと思います。
モデル33には、RO(モデル3300)、KSR(モデル3310)、ASR(モデル3320)というバリエーションがありました。ASRとはAutomatic Send Receiveの頭文字です。キーボード、プリンタ、紙テープ・リーダ、紙テープ・パンチャから構成されています。ROはReceive Only、つまりプリンタだけで、キーボードと紙テープ・リーダ/パンチャなしのモデルです。
KSRはKeyboard Send Receiveで、紙テープ・リーダ/パンチャなしのモデルです。
KSRは紙テープ・リーダ/パンチャを後付けしてASR相当にすることができます。ただし、後付け部分があるので、ASRのように樹脂製のボディが一体型ではなく、継ぎ目があります。
また、モデル32という兄弟機種があります。外観はモデル33にそっくりですが、キーボードが3列しかありません。これは国際テレタイプ通信用端末で、文字コードは5単位(5ビット)のBaudot(ボドー)コードです。
待ち受け受信も可能で、電文が送られてくると自動的にAC115V駆動のメイン・モータがONし、プリンタが電文を印刷します。ようするに文字だけのFaxみたいなものです。
機械式テレタイプの歴史をひもとけば、WW2前まで遡ります。モデル19やモデル28といったデスクトップ・テレタイプの古典的ベストセラとか、クラインシュミット社のTT-100やMITE社の潜水艦内で使うための折り畳み式の小型ラップトップ・テレタイプなどがあり、当時のメカの天才達の工夫と傑作にうならされます。
ASR33は、Teletype社純正のほかに黒田精工や日本無線などがノックダウン生産したものがありました。純正品だけでは需要に供給量が間に合わなかったのか、外貨節約のためだろうと思います。
Teletype社はASR-33の後継機種として、300bps対応の電子化されたモデル43BSR(Buffered Send Receive)を発売しました。しかし、時すでに遅く、静かな感熱プリンタを搭載し300bps対応のテキサスインスツルメンツ社のSilent 733ASR、インク・ジェット・プリンタを搭載したカシオ計算機のカシオタイピュータ502ASR(300bps)、感熱プリンタを搭載した三洋電機のSTT-601A(600bps)などが、すでに市場を席巻していました。
ところで、かつての民放テレビ・ニュースのテーマ・ミュージックは、テレタイプ・サウンドをモチーフにしたものを各局が採用していました。昔の通信社には、国際通信用テレタイプがずらりと並び、AP、AFP、Reuter、Sunなどから刻々と送られてくるニュースを印字していました。このためニュース→通信社→テレタイプとイメージされたんだろうと思います。
現在でもCBSイブニング・ニューズwithダン・ラザーのクロージング・テーマはテレタイプ・サウンドをモチーフにしたものが使われています。「タカタカタ・タカタカタ・タカタカタ、ダン・ダン」というリズムを繰り返すやつです。「タカタカタ・・・」が印字中の音で「ダン・ダン」というドラム音はCRして、LFしている音を模したものと思われます。(^_^)