HHKBエバンジェリストの高校教師、
魚住惇さんのキーボードライフがすごい

HHKBエバンジェリストの高校教師、
魚住惇さんのキーボードライフがすごい

HHKB Life

愛知県の公立高校で情報科の教師を務める魚住惇さんは、HHKBエバンジェリストを自認する筋金入りのHHKBユーザーです。2018年にはご自身の結婚式でHHKBをかたどったウェディングケーキを披露したほど、 魚住さんとHHKBの間には深い関係があります。魚住さんのキーボード遍歴とHHKBへの想いを詳しく聞きました。

「HYBRID Type-S」は現在、
唯一にして最高の道具

放課後の愛知県立杏和高等学校。たくさんのパソコンが並ぶコンピューター室の一角で、4台のHHKBと3台のRealforceが強い存在感を放っています。これらは当校の情報科教師・魚住惇さんが所有しているキーボード。 インタビューにあたり、魚住さんが用意してくれました。このうち現在のメインは「HHKB Professional HYBRID Type-S」です。

魚住さんが所有するHHKB(左)とRealforce。HHKBは新しい順に、上から「Professional HYBRID Type-S」「Professional BT」「Professional Type-S」「Professional2」というラインアップで、すべて無刻印(英語配列)。

「これまでは従来の『Professional Type-S』の打ち心地が最高だと思っていましたが、『Professional HYBRID Type-S』が出たことで『最高』のレベルが上がりました。本当に美味しいコーヒーに出会ったとき、 今まで美味しいと思っていたものを『あれ? こんなだっけ?』と思うようになりますよね。それと同じように、満足度のハードル自体が上がったような感じです」

「『Professional Type-S』と比べると、『Professional HYBRID Type-S』はタクタイル感が小さくなってリニア寄りになったように感じます。タクタイル感というのは、キーの押し始めたときの『クッ』という抵抗感のこと。 『Professional HYBRID Type-S』ではそれがかなり減少しているように感じられます。これには好みがあって、重いほうがよいという人もいますが、僕の場合は慣れてきたら『少ない力でこんなに打てるんだ。これが正解だったんだ』と思うようになりました」

現在のメインキーボードは「Professional HYBRID Type-S」。

魚住さんは「Professional HYBRID Type-S」を日々持ち歩き、職場と自宅で常時愛用しています。情報科の授業でも使うほか、ブログ作成や趣味のプログラミング、原稿執筆にも活用します (魚住さんは『教師のiPad仕事術』という著書を持つ文筆家でもあります)。

「鞄に入れて持ち歩き、出勤すると職員室のパソコンに有線でつないで使い、授業や出先では無線でiPadとペアリングしています。これ一台で何でもできるので、現在のところはメインであり唯一の存在でもあります。 はからずもHHKBの『馬の鞍』コンセプトに合った使い方をしていると思いますね」

「Professional HYBRID Type-S」は無線で4台までの自動ペアリングが可能。魚住さんはiPadなどに無線接続、職員室のパソコンに有線接続と使い分けている。 写真中央上に見えるのはPFUのスキャナー「ScanSnap iX1500」。同じモデルを職員で共有しているが、こちらは魚住さん専用の私物。


バッグはガジェット好きの間で評判のSUPER CLASSIC「かわるビジネスリュック mini」を愛用中。上部の「コアポケット」にHHKBがぴったり収まる。

高校でタッチタイピングをマスターし
大学で無刻印のHHKBに出会う

目下の「最高」である「Professional HYBRID Type-S」にたどり着くまで、魚住さんはさまざまなキーボードを試してきたそうです。その経緯と、HHKBとの出会いについて聞きましょう。

「僕は小さい頃からコンピューターが好きで、テレビの戦隊ものでキーボードをカタカタやっている博士に憧れたり、祖父のワープロ専用機をさわらせてもらったりという幼少期を送りました。 電子工作に目覚めたのは小学校高学年です。中学時代には学校に古いPC-9801があったことからN88-BASICを知って、初めてプログラミングというものに接しました」

「高校の入学祝いに自分用のパソコンを買ってもらうほどのパソコン好きでしたから、高校時代は授業が終わるとすぐに帰宅してパソコンをいじる毎日です。 学校の勉強はしなかったので、テストは赤点ばかりでした。当時から完全にパソコンを趣味にしていて、それにのめり込んでいましたね」

今もガジェット好きのパソコン少年そのまま。HHKBをさわるときの表情はいつもうれしそう。

パソコン三昧の高校時代、魚住さんは独学でタッチタイピングを身につけます。キーボードへの関心が芽生えたのもこの頃でした。

「ガジェットが好きだからということもありますが、打ったときの感触にもいろいろあるんだなと気づいて、キーボードの打ち心地へのこだわりがとても強くなったんですね。 高校生なりにいろいろなキーボードを入手して、メカニカルはどうだとか、メンブレンなら富士通製のこれがいいとか、いろいろ研究していました」

キーボード選びに試行錯誤する魚住さんに転機が訪れたのは大学時代。先輩の一人が、見たことのないコンパクトなキーボードを所有していたのです。

「なんだこれはと思って調べてみて、Happy Hackingというキーボードが存在することを知りました。なんて変態的な名前なのかと当時は思いましたよ(笑)。2005年のことで、 その先輩が持っていたモデルは『HHKB Lite2』でした」

「すると今度は、お世話になっている先生もHHKBを使っているとわかりました。それは『Professional2』というモデルで、キートップに何も書かれていない不思議なキーボードでした。 それを見たとき『なんじゃこりゃ! でも、これなら自分でも使えるぞ』と思ったんですよ」

すでにタッチタイピングをマスターしていた魚住さんと、無刻印のHHKB。「出会うべくして出会った」とはこのことでしょう。

「そんな感じでしたね。ただ、すぐにはお金をかけられなかったので、まずは『Lite』や『Lite2』を中古で買って、ようやく『Professional2』を手に入れたのが大学3年と4年の間の春休み。 キーを押した瞬間、スコッと押し込まれる感触に『うわあ、なにこれー』と、目が開かれる思いでしたね。そして『ああ、この感動をずーっと味わっていられるんだ』と思いました」

手前が大学時代に初めて手に入れた「Professional2」。購入から12年経った今も問題なく稼働する。

「高校時代には『もっと速く打ちたい』と思って、そのためには薄いパンタグラフキーボードのほうがよいのではないかと考えた時期もありましたが、 『Professional2』に触れたとき『そうか、自分に必要なのは静電容量無接点方式の深いストロークと、しっかり押し込める感じだったんだ』とわかったんです」

「Professional2」を入手した魚住さんの大学生活は以前にも増して充実したものになりました。課題のプログラムや趣味のブログを書くときも、夜中までチャットを楽しむときも、 キーボードが「Professional2」だったからこそ余計に楽しめたといいます。

「あとは授業でのタイピングですね。日本福祉大学だったので、障害を持つ学生のために、授業で先生が話した内容をその場で入力して文字にするというボランティアがあって、 そこで僕のタイピングスキルを活かすことができました。タイピングの速さでは学内で1、2を争うレベルでしたから、いつも二人分くらい打ってました。今思えば本当に楽しい時期でした」

これが魚住さんのタッチタイピング。速くて正確だ。

HHKBの英語配列を印刷して
電車の中で眺めていた

HHKBとの出会いによって魚住さんは、打ち心地と同時にもう一つの「理想」を手にすることにもなりました。HHKBの根幹ともいえる英語配列です。大学での楽しいパソコンライフも、この配列あってのものといえるそうです。

「HHKBを知るきっかけを与えてくれた先生と先輩はお二人とも英語配列を使っていて、先生が『英語配列はいいぞ』と。僕はそれまで配列に種類があることすら知りませんでしたが、気になって調べ始めたら英語配列が大好きになって、以来英語配列一本です」

HHKBの英語配列は魚住さんのキーボードライフに欠かせない。

「メインのHHKBを英語配列にしたので、Windowsの日本語配列キーボードの配列をレジストリで変えるなど、他のキーボードも全部英語配列にしていきました。ノートパソコンも、持っていたThinkPadを自分で英語配列のキーボードユニットに換えました」

英語配列を知って「正解」を手にしたと確信したからこそできることでしょう。

「僕は何か気になるものがあったらとことん調べて、とことん好きになって、とことんそればかりに目が向いちゃうんですよ。当時はそれがHHKBと英語配列でしたね。HHKBってA4用紙の半分のサイズでしょう。 だから自分でHHKBを買うまでの間は、英語配列の図を印刷したA4用紙を半分に折って、通学の電車の中で眺めていました(笑)」

感動的なほどのHHKB愛です。では、英語配列のどこが魚住さんにとって素晴らしいのでしょうか。

「たとえば、英語配列だと『=』がそのまま打てます。これはプログラムを書くときにけっこう重要だと思います。Excelで関数を入れるときも『=』をよく使いますよね。 でも日本語配列だとシフトキーを押さなければならず、それがずっとストレスでした。あとは『(』『)』が『9』『0』の位置に並んでいるのがいいなあと思います。 日本語配列では『8』『9』の位置ですよね。それが『9』『0』になるだけで、タタッと素早く打てるんですよ」

「それに、『'』と『"』が一つのキーになっているところや、『?』がシフトのすぐ隣にあるのもいいですね。英語配列は見れば見るほど、打てば打つほど、本当に理に適っていると感じられます」

「僕にとってはHHKBの英語配列が最高なんです」と魚住さん。

さらに、同じ英語配列でも「HHKBの英語配列がいい」のだと魚住さんは言います。魚住さんはHHKBと並ぶ高級キーボード「Realforce」も所有していますが、比較するとどうしてもHHKBに軍配が上がるのだとか。

「Realforceももちろんキーボード遍歴の中に含まれていて、一時期は職場にも置いていました。でも『Enter』キーと『BackSpace』の間に一つキーがあるところが『うーん』と思ってしまって。 消したいなと思ったときに間のキーをさわっちゃうんですよ。ただ、それは英語配列としては普通の並び方なんですよね。 ですからRealforceは打ち心地も含めて素晴らしいキーボードなんですけど、HHKB独特の英語配列に慣れてしまうと、そこから離れられなくなってしまうんです」

Realforceも魚住さんのキーボード遍歴の一部。新旧3機種を所有している。最初に手に入れたのは手前の日本語配列モデルで、打ち心地を試すためにたまたま見つけた中古品を購入した。

「結局、ホームポジションからできるだけ指を動かしたくないんですね。テンキーやカーソルキーが不要であることはいうまでもなく、たとえ少しであっても遠くに伸ばしたくないという。 それを実現できるのが僕にとってはHHKBだったということです。仮にHHKBの特長である打ち心地と配列のうち、どちらにより重要性を感じるかと問われたら、配列のほうが少しだけ重要と答えると思います。 あの合理的な英語配列は、もう『HHKB配列』と呼んでもよいのではないでしょうか」

白と墨では感触が違う?
鋭敏な感覚と透徹した目

2018年、はからずも魚住さんはHHKBエバンジェリストとして「名を挙げる」ことになります。ご自身の結婚式で披露した、HHKBをかたどったウェディングケーキがSNSで「バズった」状態になり、 各種ネット媒体にも取り上げられて広く流布したのです。このときは魚住さんと奥様、それぞれの好きなものをケーキにしようと決めましたが、 奥様が思いつかなかったので魚住さんの愛機『Professional2』のみをケーキにすることになったという事情が伝えられています。

多くのHHKBユーザーに強いインパクトを与えた「Professional2」のウェディングケーキ。

「僕にとっては好きなものとしてHHKBを挙げるのはとても自然なことでした。ほかのガジェットをケーキにすることは考えもしませんでしたね。ちょうど無刻印ですからキートップの文字を書き込まなくて済みますし(笑)」

大学時代の魚住さんは周囲に「タイピングの速いヤツ」と認知されていたので、自分の分身である「Professional2」をケーキにして「ウケ」を取りつつ結婚式を盛り上げたい、という想いがそこにはありました。 奥様の理解と協力もあって実現したこの企画は効果抜群。列席者だけでなく、ネットを通してHHKBユーザーをも喜ばせ、勇気づけることになりました。

さらにはこれをきっかけにPFUとの縁も生まれ、マニアックなヘビーユーザーとメーカーという良好な関係が築かれました。 HHKBに対する魚住さん自身の視野も広がり、現在は「Professional2」「Professional Type-S」「Professional BT」「Professional HYBRID Type-S」と4台のHHKBを、いずれもキートップ交換などのカスタマイズを施して所有しています。

「墨モデルの『Professional BT』には白いキートップを移植しています。キーボードはやっぱり白がいいなと僕は思うので。 無刻印ですし、そもそも打つときにキーを見ないのだから関係ないだろうと思われるかもしれませんが、白と墨では打ち心地や反響音が若干違うように感じるんですよ。 墨はコツコツした感じ、白は若干高い音が鳴る感じ。とても微妙な話ですけど、僕は墨のキートップよりも白のキートップで打つほうが気持ちいいんです」

白のキートップの感触が好きなため、墨モデルの「Professional BT」もキートップを白にしている。

もちろん白モデルも墨モデルも製品としてのスペックは同一ですが、魚住さんのようにこだわりを追求すると、感覚が研ぎ澄まされるのかもしれません。そこまでのこだわりの源泉はどこにあるのでしょうか。

「自分が思ったことや考えたことをアウトプットするとき、それ以外のストレスを感じたくないんです。入力すること自体に少しでもストレスがあると、アイデアが散ってしまうような気がするから。 できることなら『自分が何か考える→画面に出てくる』くらいのレベルが望ましいと思っています。それに近いことを実現できるキーボードはHHKBしかありません。 僕は万年筆も趣味にしていますが、よい万年筆で書くと筆記のストレスがなくなりますよね。それと同じです」

「その点で発見だったのが、冒頭にお話しした『Professional HYBRID Type-S』のタクタイル感なしの打ち心地ですね。 もともと深いキーストロークでしっかり押し込む感覚が好きでしたが、あの軽さと少しだけ浅いType-Sのストロークに慣れた今は『これが最高』と思っています。 あそこまで軽く打てると、タイピング速度が速くなる実感もあります。外出先でiPadとペアリングしてブログを書くときなども、より気軽に打てるようになりました」

HHKBとiPadのペアリングを活用して外出先でもスムーズにブログを作成。

では、さらなる理想を求めるという意味でHHKBに今後望みたいことは? インタビューの締めにうかがいましょう。

「左右二つに分割できるHHKBがあったらいいなと思いますね。両手首がキュッと締まらないポジションでタイピングできるので。 電力供給の問題などがありますから、おそらく非現実的であろうことは承知の上での要望ですが」

「もう一つは、キーマップがもっと自由にプログラマブルになるといいなということでしょうか。 『Professional HYBRID』が出たときに備えられたキーマップ変更機能は本当に素晴らしいのですが、それだけでは実現できない組み合わせがあるんですね。 たとえば、2個・3個のキーの組み合わせを『Fn』と一つのキーで実現する、Ctrl-Alt-Delを一つのキーでできるようにするといった組み合わせです」

「IMEの英語入力と日本語入力の切替をもっと便利にできないだろうかとも思います。 Macの日本語配列キーボードではいちばん手前に『英数』と『かな』がありますが、どちらかを押せばどちらかのモードになるので、すごく理に適っていると思うんですね。 僕はMacでも英語配列なので、『?』キー単押しで『英数』と『かな』をエミュレートするアプリを使っていますが、理想としてはそれをHHKB単体でやりたいんですよね。 Macでもある程度のリマップができるようになったものの、そこまで細かいことはまだできないので。もし可能なら手前に入力切替のキーを新たに設けてもらえるとよいのですが」

キーボードに対する透徹した目を持つ魚住さんならではのマニアックなご指摘、参考にしたいと思います。

魚住さんは現在、タイピングの上達に意識的な生徒のタイピング競技会出場をサポートすることなども含め、情報科の教師として忙しい日々を送っています。 「先生のキーボード、何も書いてないじゃん。私がマジックで書いてあげるよ」「やめろー」といった微笑ましいやり取りもあるとか。これからも続く魚住さんのキーボードライフをHHKBは応援していきます。

[プロフィール]

魚住 惇
愛知県立杏和高等学校 情報科教諭