人気ブロガー・YouTuberのトバログさんに聞く
人気ブロガー・YouTuberのトバログさんに聞く
「僕がHHKBを選ぶ理由」
2022年3月11日公開
さまざまなデジタルガジェットを暮らしや旅との関係の中で紹介し、幅広い層から支持されているブロガー・YouTuber・コンテンツプランナーのトバログ(鳥羽恒彰)さんに、現在の立場を確立するまでの経緯と、HHKBを選ぶ理由や現在の使い方について聞きました。
幼少期から「旅するガジェット」が大好きだった
PCとその周辺機器、スマートフォン、カメラなどのデジタルガジェットが暮らしや旅といったシーンでどう使えるかを簡潔にレビューする「トバログ」は、毎月20万人が訪れる人気ブログです。セレクトするガジェットのカラーは白がメインで、ブログのフォーマットも白が基調とクリーンなイメージをキープしつつ、時にガジェット改造などのマニアックな話題も織りまぜ、読者を飽きさせることがありません。
また2020年に開設したYouTubeチャンネルでは取り上げる対象をクルマにまで広げ、同世代のクリエイターたちと語り合う動画もアップするなど多彩に展開しており、登録者が15万人を超える(2022年2月現在)人気チャンネルに成長しています。
・ブログ「トバログ」
・YouTubeチャンネル「トバログ」
これらの媒体を運営するトバログさんは、1993年生まれの29歳(同前)。1996年に誕生したHHKBとは“ほぼ同い年”です。「トバログ」で初めて取り上げたHHKBが2016年発売と比較的新しい「Professional BT」だったのも、トバログさん自身が若いデジタルネイティブ世代だからです。
この打鍵感が病みつきに。2週間使って分かった「HHKB Professional BT」の良い点や残念な点などをレビュー
「HHKBの存在はその前から知っていましたが、学生時代はなかなか手が出せません。だいたい皆さん、就職して何年か経った頃に『キーボード、欲しいな』ってなりますよね。僕の場合、そのタイミングで最新のHHKBが『Professional BT』でした」
それまで使っていたのはMacBookのキーボードや、同じAppleのワイヤレスキーボードだったそうですが、「Professional BT」の入手以降はすっかりHHKBがメインになり、現在は「HHKB Professional Hybrid Type-S」を愛用中です。カラーは白いガジェットが好きなトバログさんにうってつけ、純白の「雪」モデルです。
「HHKB Professional Hybrid Type-S」の雪モデルを愛用中。テンキーやパームレストについては後述。
真っ白な『HHKB Professional HYBRID Type-S 雪』レビュー。無刻印化の注意点など
その使いこなし方を詳しく聞く前に、トバログさんがどのようにして人気ブロガー・YouTuberになったのか、その過程でHHKBとどのようにして出会ったのか、経緯を聞きましょう。まずはトバログさんがガジェットを好きになったきっかけから。
「僕が3歳くらいのときに母親が自宅に迎えたVAIOのノートPCが、最初に触れたデジタルガジェットです。でも、それは親のものですから自由に使っていたわけではありません。初めて自分で所有したガジェットが何かといえば、今思えば小学校に上がる前くらいに手にしてハマッたゲームボーイだったと思います」
「僕はその先がちょっと変わっていて、普通ならゲームボーイの次はスーパーファミコンなど別の機種に移るのに、僕はもう1台ゲームボーイを買ったんです。どこにでも持ち歩けて、いつでも自由に使えるこのガジェットにすごく愛着が沸いていたから。当時から旅行に行ったときに使えるようなものが好きで、クルマの中でゲームボーイをするようなこともすごく好きだったんですよ」
ガジェットと旅という「トバログ」の基本コンセプトが幼少時からの嗜好に基づくものだったとは。「三つ子の魂百まで」を地で行くような話です。では、PCやその周辺機器に接するようになったのはいつ頃でしょう。
ガジェットの詰まった鞄を小さな基地のように持ち歩いて旅先で使う楽しさを「トバログ」で発信しています。
「自分のPCを持ったのは高校1年生になってからです。大流行していたWindowsのネットブックを買いました。でも当時からPC本体よりも、お洒落なイメージのあったApple製品用のケースなどに興味がありました。たとえばIncaseというメーカーが出していたiPod用のポーチとか、そういうものですね。その頃から白いガジェットを集めるのにハマったり、鞄の中身を写真に撮ったりするようになりました」
「鞄の中身」を写真に撮ることは「トバログ」の原点の一つです。
当時、HHKBとの接点はあったのでしょうか。
「まったくありませんでした。高校までは田舎住まいで周囲に同じ趣味の人もいないし、ネットで情報を拾うこともあまりしていなかったので。高校時代はPSPをツールとして最大限に活かすために高いイヤホンを買ったり、ウォークマンを買ったりと、ポータブルゲーム機からポータブルオーディオプレイヤーに行く流れの中にいて、PCの周辺機器に目が向いたのはもう少しあとだったという事情もあります」
ポータブルオーディオプレイヤーはゲーム機と並んで、トバログさんをガジェットの道へと導いた重要なアイテムです。
また、その頃のトバログさんにはガジェット以上に真剣に取り組む対象がありました。高校に入ってから始めた器械体操です。
「高校から大学3年くらいまでは器械体操をまじめにやっていました。僕のように高校から始めた場合は、大学のスタメンで全国大会に出るためには学校の選び方が重要になってくるんですね。そこで、スタメンで全国大会を狙えて、なおかつ秋葉原が近い大学を探しまして(笑)、千葉県市川市の千葉商科大学に進学しました」
秋葉原へのアクセスを考慮するあたりはガジェット好きの面目躍如というところです。ともあれトバログさんは千葉商科大学で器械体操に打ち込み、3年生のときに見事、全国大会出場を果たします。
「幸い出場できたのですが、それで燃え尽きてしまいまして(笑)。4年生で再び全国大会を目指すという手もありましたが、その道は選ばず、好きなガジェットのことを書こうと思ってブログを始めました。全国大会が終わった3か月後のことです」
器械体操に打ち込んでいた大学時代の貴重な写真。
「ブログの書き方を教えてください」「じゃあ遊びにおいで」
ところで、デジタルガジェットを使いこなす人には理系が多いイメージがありますが、トバログさんはどうだったのでしょう。
「高校時代は生物が好きだったので理系の生物クラスに進みましたが、実は生物以外の理数系は嫌いでした(笑)。自分では、頭の構造がむしろ文系のような気がします。僕にとってはビジュアルがイメージできること、何かを見たとき頭の中にビジュアルでそのまま記録できることがけっこう重要なんですね。数学などは概念的でイメージがあまり浮かびませんが、生物はそのあたりがやりやすかったのだと思います」
なるほど、理系と文系の中間にいるからこそ、トバログさんはガジェットを機能一辺倒ではなく、かといってライフスタイル一辺倒でもなく、程よい軽みのあるクールなタッチで扱うことができるのかもしれません。
「僕がブログを始めた頃は、ガジェットをスペックで判断して機能性やベンチマークを語るブログが主流でした。でも自分がそれをやっても、あまりおもしろくできないだろうと思いました。それでもう少し一般寄りの、理系じゃない人でもガジェットに興味を持ってもらえるような発信の仕方をするのがいいだろうと思ったんです。その結果として今のスタイルに落ち着いているという感じですね」
「トバログ」では旅のレポートなど、ガジェット以外のコンテンツも人気です。
そのスタイルをトバログさんはどのように構築していったのでしょう。
「実はブログを始めた当初、書き方があまりわからなくて。じゃあ教えてもらおうかと思って、当時よく見ていた『Engadget日本版』のコンタクトフォームから『大学生なんですけど、ブログの書き方教えてください』って連絡したんですよ(笑)。そうしたら当時の編集長が『遊びにおいで』って言ってくれて、そのままインターンで編集部に入ったんです」
すごい行動力です。そこまでストレートに聞いてくる読者なら「見込みがある」と思われても不思議はありません。
「当時はガジェットをたくさん買いたいのに、器械体操に打ち込んでいたのでバイトもできず、ずっと1か月2万円で生活してたんですよ(笑)。寮だったのでご飯は何とかなりましたが、買えるガジェットはほぼなくて、MacBookもローンで買いました。そこに『芸能人がブログで月10万円を稼いでいるらしいぞ』みたいな情報を友達から得たんですね。調べてみたら、ネタフルのコグレマサトさんなどアルファブロガー系の人たちが人気を博していて、こういう方法もあるのかと」
「それで僕も始めたんですけど、実は最初、当時大流行していたおもしろ系のネタをやってたんです。『クリスマスにお台場に行ってカップルがキスしてる横で明太高菜ラーメン食べてみた』みたいな(笑)。でも、これじゃ全然ガジェットと結びつかないなと思って(笑)、それでEngadgetに連絡をしてみたという経緯です」
今は残っていないというおもしろネタブログ、それはそれで読んでみたい気もしますが、確かにガジェットの出番はなさそうです。Engadgetに連絡したのは「正解」といえそうです。
「編集部では直接文章を教えてもらうといったことはまったくありませんでしたが、その日の記事を全部読んでリンクを貼り替えるといった作業を通して、なんとなくブログの型というものを覚えていきました。それで1年後にインターンを終えてから、今の『トバログ』を立ち上げました」
ブログの基本を身につけた「Engadget日本版」インターン時代。
このインターン時代、一つの出会いがありました。HHKBの存在を初めて知ったのです。ちょうど「Professional BT」が発売されるタイミングでした。
「編集部で『HHKB、まさかBluetooth版出すのかよ』『500g以上のBluetoothキーボード、化けモンだ』みたいにすごく盛り上がっていて(笑)。でも僕は『何がいいんだろう』と思った程度で、あまり関心を持てませんでした」
ところが2度目の遭遇で「Professional BT」は俄然気になるガジェットに変わります。それはインターンを終えてPR会社に就職したトバログさんが、ある会社を取材で訪れたときのこと。取材対象のエンジニアが「Professional BT」を使っていたのです。
「実際に使っている人を初めて見て、しかもそれが『尊師スタイル』だったので、すごく衝撃的でした。その人から『これ最高だよ』『打鍵感がすごく気持ちよくて病みつきになるよ』『BluetoothモデルだとiPadでも同じ打鍵感で使えるよ』と聞いて、『ああ確かに』と。それで結局、その日のうちに僕も『Professional BT』を購入しました」
今やトバログさん自身が「尊師スタイル」でHHKBを使いこなしています。
「そのときはさすがに数時間悩みました。自分の身体に合うかどうかわからない、しかも3万円越えのキーボードを買うのはけっこう勇気のいる行為ですから。でもインターン時代に『仕事の道具を買うときは金に糸目をつけてはいけない』と教わっていたし、よいと言われるものには理由があるはずだと思ったので、思いきって買いました」
購入したモデルはブログで和文を大量に打つことから日本語配列、カラーは墨です。そのとき「Professional BT」に白いモデルはありませんでした。ところが購入後、間を置かずに白が発売されたため、「トバログ」読者に墨モデルを売って、トバログさん自身は白を買い直しました。そして、最初の墨モデルのレビュー(前掲)から買い直しの経緯までを記した3本の記事を皮切りに、HHKBは「トバログ」の常連ガジェットの一つになって現在に至っています。
キーボードはスポーツ選手の道具のようなもの
改めて、HHKBを初めて使ったときの感想をトバログさんに聞かせてもらいましょう。
「僕は初めてのPC以降、ずっと薄いキーボードを使い続けていたので、それが自分の身体にいちばん合うと思っていました。実際、HHKBを使い始めてみたら最初はかなり違和感があって大変でした。でも2週間くらい使ったら普通に打てるようになって、逆にノートPCの薄いキーボードだと手が痛くて押せなくなってしまいました。それからはずっとHHKBです。HHKBは空気をつかむような感じでサクサク打てます」
ストロークの深いHHKBの打ち心地は他のキーボードと一線を画しています。
トバログさんが「Professional BT」に続いて入手したのは「Professional Hybrid Type-S」。そちらの感想はどうでしょう。
「『Professional BT』のときに感じられたてカチャカチャ音がなくなって、個人的には柔らかくなった印象を受けました。会社に勤務していた頃はよく会社帰りにスタバでブログの作業をしていて、『BT』のときは隣にいる人から舌打ちされてたんですけど(笑)、『Type-S』に替えてからはあまりされなくなりました」
「最高だなと思ったのが、ペアリングが4台までできることです。会社ではWindowsのPCと接続して、そのあと自分のMacBook Airに接続して、という切り替えがしやすくなったのが本当にありがたくて。ほかにもガジェットがあるので4台でも足りないくらいですけど(笑)、それでも4台あれば主要なガジェットにはアクセスできますから」
「Hybrid」モデルならiPadともスムーズにペアリングできます。
現在、トバログさんの愛機は冒頭で触れたように『Professional Hybrid Type-S』の雪モデルです。使い方とデスク上でのセッティングについて詳しく聞きましょう。
「純白のモデルが出ると聞いてさっそく購入しました。配列は英語配列です。もともと日本語配列でしたが、最近は動画編集や3DCGなどをよくやっていて、そのためには英語配列のほうが都合がよいので。もうかなり慣れて、“自分の道具”という感じになってきました」
トバログさんが愛用する「雪」モデルのキートップに見慣れない刻印が……?
ところでこの雪モデル、キートップの刻印が見慣れないもののような。何か改造を施しているのでしょうか。
「『REALFORCE for Mac』のキートップに交換しています。実は雪モデルを買う前に『REALFORCE for Mac』の英語配列も購入していて、そちらのキートップのほうが小さいフォントでスタイリッシュだったので」
「できるだけ、ぱっと見たときにあまりノイズがないというか、視覚的にうるさすぎないものが好きなんです。ですから本来は雪モデルも無刻印にしたかったんですけど、HHKBで初めての英語配列なので刻印ありにしておき、オプションの無刻印キートップセットを購入しました。記号に慣れてきたらそのうち無刻印化するので、現状の『REALFORCE for Mac』のキートップは暫定的なものです」
この「Professional Hybrid Type-S」の雪モデルを、トバログさんはどのようなガジェットと組み合わせて使っているのでしょうか。
「YouTubeを始めた2年前から、動画編集のためにテンキーを導入しました。HHKBに近い打鍵感で打てるようにREALFORCEのテンキーを左側に置いています。右側はトラックボールです」
トバログさんのデスク。HHKBのまわりにテンキー、トラックボール、パームレストを配置しています。
「左側にテンキーを置くならフルサイズのキーボードを使えばよいのでは、というご意見もいただきますが、実はけっこうこだわりがあります。動画編集ではキーボードやトラックボールの使い方が文字入力とはガラリと変わって、左手でテンキーを打ちながら右手でトラックボールなどを操作できるのはかなり都合がいいんです。トラックボールを操作しながらデリートキーやエンターキーなどを押せることもメリットです」
「パームレストはKensingtonの長いタイプを使っています。僕は肩幅が広いので、HHKBを打つときには腕がどうしてもハの字型になります。なので逆ハの字に置けるよう小さいパームレストを2つ使っていましたが、それが古くなったので、逆ハの字の形にもできる柔らかくて長いものにしました」
パームレストと手の位置関係はこんな感じ。右側のトラックボール用に小振りのパームレストも使用しています。
肩幅問題といえば、トバログさんはブログで左右分割型の自作キーボードを使ったり、HHKBを左右に2台置いてみたりと、さまざまなことを試していましたが、現在はもっぱらHHKBの1台使いとのこと。
「左右分割型キーボードはカスタム性が高すぎて結局慣れることができなかったのと、Bluetooth化しにくいといった事情もあって、今は使っていません。いろいろ試しましたがコストパフォーマンスや品質、持続性といった点で、結局はHHKBに戻ってくるという感じです」
「HHKBの2台使いは、いつの間かしなくなっちゃいましたね(笑)。ハの字型でずっとキーボードを打っていると疲れるので、手を左右に開くことができれば快適で人間工学的にも正しいだろうと持ってやったんですけど、いざ開いてみると、それはそれで疲れちゃうんですよね」
なるほど、1台の場合はハの字型が多少窮屈でもパームレストやキーボード自体が支えになってくれますが、左右1台ずつの場合は腕が楽になっても、支えなしで身体を起こし続けなければなりません。それは意外な盲点かもしれません。
「そうなんですよ。その点、今は文字入力するときに腕がハの字型になって、動画編集のときはテンキーとトラックボールで左右に開くという感じですから、ちょうどバランスが取れているのかなと思っています」
インタビューの締めに、今後HHKBに望むことを聞かせてもらいましょう。
「雪モデルが出た今はあまり要望もありませんが、しいていえばHHKBのテンキーがあったらおもしろいなと思います。それと、どのガジェットとペアリングしているかがすぐにわかる機能があるといいなとは思いますね。あとは今後、VR空間上の作業環境でもHHKBを使いたいといった話も出てくるのと思うので、対応してもらえるといいかなと思います」
「細かいところでは、ユーザーがSNSに投稿したくなるようなキートップ、たとえばこのハンドスピナー付きのものなどを付けたいと思っても互換性がなくて付けられないので、互換用の部品みたいなものを出してくれるとありがたいなと(笑)」
「でも使用感に関しては今のところまったく不満がありません。キーボードって、スポーツ選手の道具と同じようなものだと思うんですよね。スポーツ選手は気に入れば同じ道具をずっと使い続けて、しかも同じ状態に保とうとするじゃないですか。野球選手ならグローブにスチーマーを当ててお気に入りの形に戻すとか、フィギュアスケート選手なら靴紐をできるだけ取り替えないようにするとか。キーボードもそれにすごく近くて、何も考えずにキーボードを叩けるというのはとても重要なことですから、基本的にはHHKBを使い続けると思います」
[プロフィール]
- ブログ:トバログ
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- Youtube:トバログ
執筆者
石川光則(柏木光大郎)
編集者、株式会社ヒトリシャ代表。高畑正幸著『究極の文房具カタログ』やブング・ジャム著『筆箱採集帳』の編集、ANA機内誌『翼の王国』の編集執筆など、出版物やwebを中心に活動。
編著に『#どれだけのミスをしたかを競うミス日本コンテスト』(KADOKAWA)がある。