健康的な仕事中毒?――WORKAHOLIC×ingCloud×HHKBで実現する最高の没入感を体験するイベント潜入レポート

イベント告知看板
WORKAHOLICの入口付近に設置してあったイベント告知

長時間のデスクワークが要因の腰痛や肩こりといった身体的な疲労は、多くのワーカーやエンジニアを悩ませる深刻な課題となっています。いくら優れた思考やアイデアを持っていても、体が悲鳴を上げてしまっては、深い集中(ゾーン)を維持することはできません。

キーボードが思考を出力するインターフェースであるならば、作業者が長時間を過ごす「椅子」は、肉体を支え思考の土台を作る重要なインターフェースといえるでしょう。

この「入力」と「姿勢」という、デスクワークにおける2大要素の最適解を探り、課題解決の糸口となるかもしれないイベントが開催されました。それが、深い没入感を生み出すキーボード「HHKB」と、コクヨがエンジニアのために開発した究極のワークチェア「ingCloud(イングクラウド)」、そして高機能ワークチェアのセレクトショップ「WORKAHOLIC(ワーカホリック)」がコラボレーションした1日限定の体験イベントです。

本記事では、理想の仕事環境を求めて潜入したその熱気あふれるイベントの模様と、そこで語られた「道具が人間に寄り添うとはどういうことか」という根源的なテーマについて、たっぷりとレポートをお届けします。

なぜHHKBとingCloudのコラボイベントが開催されたのか

ingCloudは、コクヨが8年もの歳月をかけて開発したワークチェアです。そこにあるということすら忘れさせ、圧倒的な没入感(dive in.)を生み出すという設計思想は、HHKBが目指す「余計なものを削ぎ落とし、思考に直結する」という哲学と深く共鳴しています。

2025年に開催されたワークプレイスアイテムの展示会「オルガテック東京」でコクヨがingCloudと共にHHKBを展示したことをきっかけに両者の親和性が注目され、今回の1日限定体験イベントへとつながりました。

会場となったのは、東京・浅草橋にある高機能ワークチェアのセレクトショップ「WORKAHOLIC」(ワーカホリック)です。

WORKAHOLIC
WORKAHOLIC

店内には独自の指標でセレクトした国内外の主要な高級ワークチェア約80脚がズラリと並びますが、今回はイベントのためにその多くをingCloudが占めていました。

そして、その対となるデスク上に設置されたのはもちろんHHKBシリーズです。

ingCloud
特別展示のingCloudと……
HHKBシリーズ
デスクの上にはHHKBシリーズ
HHKB
さまざまな職種を想定した作業環境が再現されており、そこにHHKBシリーズが設置されていました

参加者は、ingCloudの極上の座り心地を堪能しながらHHKBシリーズでの打鍵感を試すことができます。「入力と姿勢の理想形」を自身の体で比較・体験するのに最高のイベントとなりました。

WORKAHOLICとは?――広報井上さんへの特別インタビューも敢行

イベントの舞台となったWORKAHOLICについても紹介しましょう。

世の中には、国内外のメーカーがいくつものワークチェアを開発・販売しています。しかし、それぞれのショールームへ足を運び、その中から自分に合う椅子を見つけ出すのは至難の業です。A社のショールームで「この椅子が良い」と感じても、B社のショールームへ行くまでに座り心地を忘れてしまうかもしれません。違いを比べたくても、往復している間に何が良かったのかの感覚を忘れてしまうのです。

しかし、WORKAHOLICでは、独自の指標で厳選した約18ブランドの約80脚を同じ空間に集めています。また、専任の「チェアコンシェルジュ」が顧客一人ひとりに最適な一脚を提案するプロフェッショナル集団でもあります。

各種ワークチェア
下に置ききれないほどのワークチェアが並んでいました
ingシリーズ
この日はingCloudとのコラボイベントなので、壇上にはingシリーズがずらりと並べられていました

120分という時間の中で、顧客は自由に店内の椅子を試しながら、チェアコンシェルジュからのアドバイスを受けつつ、“自分にとって”最適な椅子を見つけられるというわけです。

今回、WORKAHOLICのチェアコンシェルジュであり広報でもある井上将人氏に、同店の独自のスタイルと哲学についてお話を伺いました。

WORKAHOLIC チェアコンシェルジュ 広報 井上将人さん
WORKAHOLIC チェアコンシェルジュ 広報 井上将人さん

――:WORKAHOLICについて教えていただけますか。

井上将人氏(以下、井上さん):前身は椅子も取り扱うオフィス設計企業でしたが、椅子は提案しても試してもらう場所がないと選んでいただくのが難しい。それでこのような場所を作りましたが、to C向けにブランディングもしていこうということで「WORKAHOLIC」を立ち上げました。中毒になるぐらい仕事を楽しんでやってもらいたい。そのために、椅子を起点に、デスクや周辺アイテム、レイアウトまで含めたワーク環境全体をサポートしたいという想いです。

現在、WORKAHOLICは、完全予約制で有料という珍しいスタイルをとっています。もともとは無料で案内していましたが、コロナによる最初の緊急事態宣言が発令されました。そこで私たちも密を避けるため、同時来店の人数を制限し、さらに接客時間を最大2時間とする完全予約制を実施しました。その結果、本来自分たちが提供すべき接客が可能となり、お客様にも予約制以前よりご満足いただけるチェアコンシェルジュサービスを提供できているという実感もあります。コロナ禍では、最大で予約が3~4ヵ月待ちになったこともありました。一人ひとりのお客様としっかり向き合う時間を確保すべく、現在も完全予約制・有料制で営業を続けています。

――:有料化することで、なにか変化は見られましたか。

井上さん:そうですね、有料化によって、来店されるお客様の「本気度」が上がり、アドバイスに深く耳を傾けてもらえるようになったと思います。コンシェルジュ側も「お金をいただいている以上、この方の悩みを絶対に解決しなければならない」という強いプレッシャーと責任感を持つようになり、サービスの質が飛躍的に向上しましたね。

――:おひとりにつき2時間とのことですが、流れというか内訳をお聞きしても良いですか。

井上さん:もちろん!

まず、悩みをヒアリングします。体のどこかに不具合を抱えていないかどうかですね。それから姿勢を拝見し、どこに負担がかかっているかをチェックします。そして、負担のかからない姿勢についてお伝えしますが、理想的な姿勢を自力で長時間維持することは現実的にはほぼ不可能です。
だからこそ、その姿勢を無理なく保てるように、椅子の調整や使い方まで具体的にレクチャーします。どうすれば自然に楽な状態をつくれるか、椅子探しに入る前に皆さまにご案内しています。
それから椅子探しをしてもらいます。背もたれや座面の心地よさで選んでいただき、最終的に残った候補からご自宅のデスク環境に合うかどうかを検証し、理想の1脚へと絞り込んでいきます。

――:おすすめの椅子というのはないのですか?

井上さん:おすすめの椅子というのは、ないんです。うちではどのブランドにも肩入れしない中立的なスタンスを取っており、購入自体もお客様に委ねています。WORKAHOLICで理想の1脚を見つけたからといって、必ずしもそれを購入してもらう必要はありませんし、なんならその椅子をうちより低価格で販売している店舗で購入してもいいと考えています。楽しく仕事に中毒になっていただければ、それで良いのです。

――:懐が広いですね! HHKBについてもちょっとだけ話を伺いたいと思います。今お使いのキーボードについて教えてもらえますか。

井上さん:HHKB HYBRID Type-S 日本語配列 墨の刻印ありを使っています。といっても、まだ2カ月しか経っていないんですが。

――:フレッシュですね! 使い始めて、なにか変化はありましたか。

井上さん:デスクワークが少ないので、まだ3割程度しか使いこなせていないのですが、それでもちゃんと変化はありますよ。

これまで後回しにしていたり、短かったりしたメールへの返信が早くなりましたし長くなりました(笑)。メールを打ちたくなる、長く触っていたくなる、そういうキーボードだなと感じています。

井上さん
HHKBを3割しか使いこなせていないという井上さんですが、「メールを打ちたくなるキーボード」という評価をくださいました

――:読者の皆さんに伝えたいことがあれば、お聞かせください。

井上さん:椅子やキーボードは体に直接触れるアイテムですし、ディスプレイは触ることはなくても視覚情報で体に影響を与えるアイテムです。これらのものを価格やデザインで選ぶ人が多いかと思いますが、果たして長期的に見たときにそれで良いのだろうか、と振り返ってもらいたいですね。

WORKAHOLICは、どんな椅子があるのか、どういう選び方をすれば良いのかをお伝えする場所です。購入しなくても構わないので、ぜひ一度いらしていただければうれしいです。

――:イベント中のお忙しいところ、ありがとうございました。

「ingCloud × HHKB」のデスクセットアップを体験した!

本イベントでは、2つのトークセッションが用意されています。また、特別にイベント主催者のWORKAHOLIC 井上さんからもお話を聞く機会を得られました。

その合間を縫って、「ingCloud × HHKB」の特設デスクセットアップを体験しないわけにはいきません。筆者はHHKBシリーズの愛用者でもあるので、思考を止めない没入感を既に知っています。

新しい体験となるのは、ingCloudに身を預けながらのタイピングです。

ingCloud
入口付近に設置してあったingCloud。ここで座り心地を確かめることもできます

ingCloudは、その名の通り「雲」に包まれているかのような優しい座り心地を実現しています。実際に雲に包まれたことがないので、これではピンとこないかもしれませんね。他に例えるなら、浴槽につかっているような、温泉でくつろいでいるかのような、そのような浮力を感じられるワークチェアなのです。

体を温めるだけならシャワーを長く浴びたり、サウナや岩盤浴に入ったりすれば良いですが、湯船につかりたい、温泉に入りたいというのは、あの浮力による脱力感を得たいからではないでしょうか。それでいて、お湯の存在を考えることはありません。椅子に座っているのに存在感を忘れるような、自分の他にはキーボードとディスプレイだけがあるような、そのような不思議な感覚に陥りました。

トークセッションが始まるまでの間、ingCloudの座り心地とデスクの高さの関係、椅子と入力環境でどのように作業しやすくなるかを、時間をかけて体験するイベント参加者が何人もいました。イベントに足を運んでくださったHHKB愛用者の中には、キーボードだけではない作業環境の重要性を再認識する人もいました。

HHKBを操作
長年のHHKBユーザーのおひとりに協力してもらい、タイピングしている様子を撮影させてもらいました
相乗効果
こちらの参加者は、ingCloudに深く身を預けながらタイピングして、ご自身の作業との相性を確認しているようでした

トークセッション「HHKB × KOKUYO」で“人に寄り添う道具”について考察する

今回のイベントの目玉の一つは、ingCloudを開発したコクヨ ワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 木下洋二郎さん、PFU HHKBビジネス部 部長 山口篤さん、WORKAHOLIC 井上さんによるトークセッションです。

コクヨ ワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 木下洋二郎さん
コクヨ ワークプレイス事業本部 ものづくり開発本部 木下洋二郎さん。「坐る」という行為と、室内で「座る」場所や空間について探求しているといいます
PFU HHKBビジネス部 部長 山口篤さん
PFU HHKBビジネス部 部長 山口篤さん。以前はScanSnap関連事業も担当していましたが、現在ではHHKBのすべてを任されています
WORKAHOLIC チェアコンシェルジュ 広報 井上将人さん
WORKAHOLIC チェアコンシェルジュ 広報 井上将人さん。他のお二人の「仕事へのスタンス」を見た後だったので「まじめに書きすぎちゃいましたね!」と笑っていました。チェアコンシェルジュとして、その人その人に合う椅子を選ぶサポートをしています

テーマは「道具はどこまで人に寄り添うべきか」というものです。

「道具は、どこまで人に寄り添うべきか」
「道具は、どこまで人に寄り添うべきか」がテーマ

木下さんは、自身の背骨のS字カーブが極端に強く、自社の椅子に座っていても腰痛に悩まされていたという過去を明かしました。既存の様々な調整機能を駆使しても解決しなかったからこそ、「調整機能をなくし、どんな体型にも自然にフィットする」というingCloudの究極の体圧分散のアイデアが生まれたのだと語ります。

木下さん
自分に合う椅子がなかったので、自分のような悩みを抱えている人たちに寄り添う椅子を開発することにしたという木下さん

それに対し山口さんは、「実のところ、HHKBは(人の体に)寄り添っていないんです」と大胆な発言をして会場を沸かせました。

「小さいし、肩がこると言われることもあります。分割キーボードやサイズの大きなキーボードのような人間工学(エルゴノミクス)デザインで人に寄り添うのではなく、『人間がHHKBの配列に合わせろ』というスタンスなんですよね。

しかしそれは、思考を一つの場所に集中させるという目的に寄与しているんです」(山口さん)

山口さん
「思考を一つの場所に集中させる手助けをするのがHHKB」

HHKBはホームポジションから手の動きを最小限に打てるのですが、さらにHHKB Studioは、手を動かさずマウス操作すら完結させることで、物理的な動作による「思考のブレ(ノイズ)」をなくしているといいます。

それに対し、井上さんは「そうか、ノイズレスだから没入できるのか」と納得。「例えば、本を読んでいるときにものすごく集中していると、その時に聞いていた音楽のことを覚えていない。そこではじめて集中していたんだな、と気づきます。没入って、自分で入ろうとしてもできないんですよね。結局触れているさまざまなものに違和感がない、ノイズレスであることによって没入するかどうかが決まってくるんですね」とその考えを補強します。

井上さん
「ノイズレス」と「没入」の関係性にハッとしたという井上さん

「ノイズを消す」というアプローチに木下さんも共感を示しました。機能やボタンをたくさん付けることより、「ユーザーが集中していることの邪魔をしない(ノイズにならない)こと、座り直したり、過剰に調整したりするというノイズを削ぎ落とすこと」が真の寄り添いであると、3人の意見が一致しました。

HHKBの無刻印モデルがその最たる例であり、印字すら削ぎ落とすことで、完全に指の感覚と思考だけが直結する境地に至ります。

さらに木下さんは、安藤忠雄氏が設計した「光の教会」の木製礼拝椅子の写真を提示し、硬くて垂直な、人間工学的には決して快適とは言えない椅子であっても、その神聖な空間においては人間の精神を覚醒させ、祈りに寄り添う最高の椅子として機能していると語りました。

教会の礼拝堂
木下さんが撮影した教会の礼拝堂内の写真。どの椅子も木製で硬く、背もたれが垂直なため、とても座り心地が良いとはいえません。しかし、精神を覚醒させ祈るというシーンでは最高の役割を果たします
ingCloud
こちらはingCloudのある作業環境。その場に合った道具が“人に寄り添う”ものとなるのです

道具は必ずしも単体で人に寄り添うものではない、シチュエーションや環境、ユーザーの目的と合致して初めて真価を発揮するという深い洞察が共有されました。

「トバログ × KOKUYO」トークセッションで話された“椅子の立ち位置”とは?

午後に行われたトークセッションは、木下さん、井上さんに加え、ガジェットやライフスタイルの発信で人気のYouTuberトバログさん(トバログの中の人)をゲストに迎えて「なぜ椅子にお金をかけるのか」というトークセッションが行われました。

「なぜ椅子にお金をかけるのか」
「なぜ椅子にお金をかけるのか」をテーマに繰り広げられたトークセッションの始まり
YouTuberトバログさん
YouTuberトバログさん

トバログさんは、ガジェットにこだわることで有名ですが、「椅子」もガジェットと同じだと語ります。

「最初は安い椅子を買ってすぐ壊れてしまい、そこから中古で3万円の高級チェアを購入したのが高級なオフィスチェアへの入口でした。中古で価値を実感し、次は新品で買おうと思ったんです。

高校時代まで器械体操をしていたのですが、それをやめてから肩こりなど身体的な不調が増えてきたのもひとつのきっかけとなっています。椅子が体やモチベーションに顕著に影響するんだなと実感しました。椅子は生産性を左右する重要なインターフェース(ガジェット)なんです」(トバログさん)

トバログさん
「中古でもこんなに良い体験が得られるのなら、新品だったらさらに良い体験を得られるに違いない」と、高価な椅子に目覚めてしまったトバログさん

トバログさんとingCloud(正確には木下さん)の出会いは、個人で出版した本『Tobalog_Paper』イベントがきっかけでした。

実のところ木下さんは、トバログさんのYouTube動画をよく視聴していて、「ingCloudのカラーリングを考えるのにも参考にしていた」といいます。そして「いつかトバログさんに動画紹介をお願いしたいなぁ。でも、いきなり案件を持っていくのは失礼だよなぁ」と考えていたときに、同僚の一人から「今日、トバログさんの出版イベントがありますよ」と教えてもらい、たまたま上京していて、しかもスケジュールが空いていたことから、そのイベントへ足を運んで面識を持つことができました。ingCloud発表の2カ月前のことでした。

木下さん
トバログさんとの出会いについて語る木下さん

その後、オルガテック東京のコクヨブースへやってきたトバログさんが、実際にingCloudに座り、好感を抱くことになりました。

ここまで聞くと、「じゃあ、トバログさんはいつもingCloudに座って仕事をしているんだろうな」と思うかもしれません。

実は、ingCloudだけでなくアーロンチェアなど複数の高級チェアを部屋に置き、「シチュエーションによって椅子を変えている」のだそうです。

トバログさんは「ingCloudは座面が柔らかく、お尻周りの圧迫感が少ない。おかげで鍼灸院に通う回数が減りました。しかし、肩や背中をガッチリ固定したい瞬間もあります。そういう時はアーロンチェアに移ります」とリアルな体験を語りました。

トバログさん
椅子の上で、さまざまな姿勢を披露するトバログさん。この他、キーボードを使っているときの姿、立ち上がる時など、椅子に対して深いこだわりのある様子が見られました

これに対し木下さんも、一つの姿勢で固まること自体が不自然であり、目的に応じて複数の椅子を使い分けることは理にかなっていると同意しました。また、「ほぼ自分のために作った椅子なのに、オフィスでは試作を作って実験を繰り返しているので使っていないんですよ!」とオフィス内の写真を見せながら驚きの暴露もしてくれました。

トバログさんはingCloudの「デザイン性」も高く評価していました。

「僕は白が好きということで知られていますが、ingCloudは真っ白ではなくライトグレーの色合い。でもそれが白い壁やモダンな空間にスッとなじみつつ、アクセントになる。

壁の色と全く同じだったら動画を見てくださっている方たちにとっても、結構圧迫感があると思うんですよね。そういう意味でも、このライトグレーのコントラストがとてもおしゃれで良いな、と感じています」(トバログさん)

トバログさんの作業環境
トバログさんの作業環境。色もそうですが、シンプルなデザインだからこそ、ingCloudがこの空間にマッチしていると感じました

プロダクトデザインを志していた木下さんは、ワークチェア特有のゴテゴテしたメカニカルなデザインに疑問を感じていたため、モダンでスッキリ、ミニマルで美しい造形を目指したという経緯を語ってくれました。

さらに、現代の消費者は単なる機能の羅列ではなく、背後にある「思想」や「ストーリー」に惹かれるという話題も展開されました。

「歴史を積み重ねている家具はなぜ愛されるのだろうか、ハンス・J・ウェグナーの『ザ・チェア』など、歴史的な名作家具が、あんなに高価なのになぜ愛され続けているんだろうか。逆に、アルヴァ・アアルト『スツール60』という丸椅子になぜ惹かれるのだろうか。

そう考えたときに、その椅子たちにストーリーや思想があるということに思い至りました。そういう製品だからこそ、お金をかけてしまうのかもしれませんね」(トバログさん)

「ウェグナーは、椅子の中の椅子である『ザ・チェア』を作り出したにもかかわらず『最高の椅子は存在しない』と語っている」と木下さん。

「座ることは人間の体の骨格からしたら不自然で、どこかしらに不具合が出てしまう。座り心地や体の支え方で絶対にこれが正解だという椅子はないんです。何を目的にするのか、何を重視するのかで変わります。

自分はこれがいい、これが1番だと考えてingCloudを紹介しているけど、必ずしも全員にとって最高というわけではない。このような場でフラットに皆さんからの意見を聞くことができる機会を得られて感謝しています」(木下さん)

木下さん
「フラットに意見を聞けるこのような場はありがたい」と語る木下さん

トバログさんは、「HHKBは至高のキーボードだから、これを使うと決めたら、本来ならHHKBだけでいい。でも、みんな探求したいから自作キーボードに手を出したり、別のキーボードを購入する。椅子も同じということですよね」と締めくくっていました。

座り心地と打鍵感を試すトバログさん
会場入りしてからトークセッションが始まるまでの間、トバログさんもWORKAHOLICにセッティングされたingCloudとHHKBを試していました

付け足すより引き算で没入感が生まれる

このイベントを通じて見えてきたのは、HHKBとingCloudが単なる「キーボード」と「椅子」ではなく、「人間のノイズを極限まで削ぎ落とすことで、深い思考へとダイブさせるための道具」として、図らずも同じ思想で設計されているということでした。

機能を追加するのではなく、不要なものを引いていく。人間に道具を合わせるのではなく、人間の持つ本来の感覚や無意識の動きを引き出す。

この考え方は、スペック表の数値だけでは理解できるものではありません。タイピングの感触、座った瞬間の心地よさなどは、体験することによってのみ得られる情報ではないでしょうか。

もし、今の作業環境や身体的な疲労に少しでも課題を感じているのであれば、WORKAHOLICのように一箇所で選りすぐりの環境を体験できる場所や、コクヨの体験スペース、そして全国のHHKBタッチ&トライスポットに足を運んでみてください。その体験が、「究極の没入」への答えを教えてくれるはずです。

執筆者

渡辺まりか

通電するガジェットをこよなく愛するフリーランスライター。馬が好きで乗馬ライセンスを、海が好きで二級小型船舶操縦士免許を、昔からのあこがれで普通二輪免許を取得するなど多趣味。物欲を抑えつつ、編み物をライフワークとするなどアナログな一面もある。

関連メディア