仕事道具に求めるのは「ノイズの少なさ」。
エンジニア向け動画メディア「TECH WORLD」を運営する市川さんにチャンネル運営の想いとこだわりを聞いてきた

株式会社テックワールド代表取締役社長 市川達大さん
ITエンジニア向け人気YouTubeチャンネル「TECH WORLD」を運営する株式会社テックワールド代表取締役社長 市川達大さん

多くの人が新生活を始めるシーズンになると、「自分のキャリアの方向性は、これで合っているのだろうか」と気になることがあります。でも、どのような選択肢が広がっているのか分からない。

そんな悩める社会人たちが、知識と自分のキャリアの選択肢の幅を広げ、知的好奇心の刺激によりこれまで以上に豊かな生活を送れるような情報を提供しているのがITエンジニア向け人気YouTubeチャンネル「TECH WORLD」を運営している「株式会社テックワールド」です。

今回は、株式会社テックワールド 代表取締役 社長 市川達大さんに、会社を通して実現したい世界観や、仕事への思い、また仕事道具についてお話を伺いました。市川さんは、「TECH WORLD」チャンネルで幾度も「キング・オブ・キーボード」としてHHKBを紹介してくださるほどのHHKBファンです。どのような話が飛び出すでしょうか。

「より良い選択肢」を届ける3つの柱

株式会社テックワールドは、「自社メディア事業」、「動画でのエンジニア採用/技術ブランディング支援事業」、「オフライン技術イベント事業」の3本柱で事業を展開しています。軸となっているのは運営するYouTubeチャンネル「TECH WORLD」で、オフラインイベントの様子もチャンネル内で公開します。

また、TECH WORLD内では、ITエンジニア向けの場合エンジニアのキャリアや技術に関するコンテンツを、企業向けエンジニア採用ブランディング支援では企業の言語化しにくい魅力を伝えられるコンテンツを提供しています。

オフラインイベントではハッカソンや勉強会、技術カンファレンスなどを行うことで、同じ志を持ったコミュニティで新たな出会いを作ったり、つながりを強めたりする機会を提供しています。また、オフラインだからこそ、これまで企業がリーチできなかった優秀なITエンジニアとの出会い、採用につながるケースも出てきています。もちろん、企業にはスポンサードしてもらうため、“三方良し”の世界が実現しています。

「TECH WORLD HACKATHON2025」の様子
2025年12月に初めて開催したオフラインイベント「TECH WORLD HACKATHON2025」の様子。そうそうたる企業がスポンサーにつき、テーマに沿った開発を短時間で行いました

「おもしろいこと」を仕事にするしたたかな戦略

複数の事業を手がけ、しかも大手企業からのスポンサードのあるオフラインイベントを開催していることから、株式会社テックワールドに対して複数人で立ち上げたベンチャー企業というイメージを持っていたのですが、実はこの3月に1人採用するまで市川さんは、“一人親方”状態だったといいます。どのような経緯で立ち上げたのか、何を重視しているのかについて伺っていきます。

――:テックワールドとして掲げている理念や、大切にしていることは何ですか?

市川さん:ミッションは『より良い選択肢を提供し、人々の生活を豊かにする』というものです。多くの社会人が抱きがちな「人生、これで良いのか」という悩みに対して、経験ある人の話をメディアとして発信することで、「こういう考え方があるんだよ」と提示したり、技術的な知識の幅を広げたり深めたりするきっかけを作り、視聴してくれている人の選択肢の幅を広げたいんですよね。

それがメディアとしての根本的な役割だと思っていますし、これから行おうとしている新規事業も、すべてこの理念に基づいています。

――:そもそも市川さんがテックワールドを立ち上げるきっかけになったことに、何があったのでしょうか。

市川さん:僕自身は、大阪大学でコンピューターサイエンスを専攻していました。高校生の頃に人工知能の特集を見て、「これはおもしろそうだなぁ」と思ったことと、漠然と「起業したい」という思いがあったことがハマって、コンピューターサイエンスの道へと進みました。エンジニアになれば、起業した仕事がうまくいかなかったとしても、フリーランスとして稼いで生活することができるかなというリスクヘッジになりますからね。

コンピューターサイエンスを学んではいましたが、学生時代は焼肉店で肉を盛り付けるバイトをしていましてね。ハラミを盛っていたある時、「あれ、僕はこれをするために生まれてきたんだっけ?」と思い立ってしまい、そのバイトはやめました。

そして、自分の持っている技術であるプログラミングを活かして、プログラミングのメンタリングサービスを立ち上げたんです。

ただ、それでは広がりがない。そこで宣伝のために始めたのがYouTubeチャンネル「TECH WORLD」だったというわけです。

市川さん
YouTubeでの発信は、自分がやりたかったことを実現する手段の1つだったと語る市川さん

――:大卒でメガベンチャーに就職されたこともありましたよね。

市川さん:そうですね、そこでエンジニアとして働きながらも、TECH WORLDは続けていました。

ただ、仕事とどちらがおもしろいかというと、自分で開設しているTECH WORLDのほうが上回っていた。そして、たまたまYouTubeが伸びてきたタイミングだったし、当時はエンジニア向けの動画メディアがなかったこともあり、「今、フルベットすれば、この領域で一番を取れるのでは?」と考えて、会社を辞めて起業することにしたんです。

――:辞めることに不安はありませんでしたか。

市川さん:「最悪、失敗しても食いっぱぐれないためのセーフティーネット」として、食べていける程度のエンジニアとしてのスキルを身に付けたつもりでしたしね。その安心感があったからこそ、本当にやりたいこと、おもしろいと思えることに挑戦できるタイミングで思い切って会社を辞めることができたのです。

幸い、在職中の2023年12月から2024年8月にかけてチャンネル登録者数が一気に7万人ほど増えており、仕事を辞めるタイミングで8万~9万人の人が登録してくれていましたし、現在では12万人を超えています。

「銀の盾(シルバークリエイターアワード)」
チャンネル登録者数10万人を達成したクリエイターに与えられるYouTube「銀の盾(シルバークリエイターアワード)」

――:市川さんにとって「おもしろい仕事」とはどういうものでしょうか。

市川さん:フェーズによって変わりますが、今は『人に影響を与えられて、かつ自分にしかできないこと』が一番おもしろいですね。極端な話をすると、僕より優秀でコードを書くのが好きなエンジニアは世の中に無限にいます。だから、エンジニアとして僕が勝負しても、そういう人たちに勝つことはできません。

それより、映像やメディアを通じて人に新しい選択肢を提示する方が、僕にしかできない価値を提供できるのではないかなと思っています。

――:現在、何人で事業を回されているんですか。

市川さん:この3月に1人採用したんですが、それまでは僕1人が専業で、あとは5~6人ほどのメンバーが映像制作サポートなどを業務委託として手伝ってくれています。

――:その人数でオフラインイベントも開催されていたんですね。毎日がかなりお忙しそうですが、仕事をする上で特に意識していることはありますか。

市川さん:『健康第一』ですね。実は幼少期に病気で腎臓を片方摘出していて、健康体に見えるけど、年を取ったらどうなるか分からない。だから人一倍健康への意識が高いんですよ。塩分を控えめにしたり、毎日7〜8時間はしっかり睡眠をとったりと、体を壊さないための自己管理を徹底しています。

自分が倒れたら仕事がすべてストップしてしまいますからね。健康維持は事業継続に直結する重要な要素だと考えています。

HHKBと仕事環境へのこだわり――「テンション」と「疲れにくさ」がノイズを消す

――:では、HHKBについてもお聞きしていきますね。使い始めたきっかけについて教えていただけますか。

市川さん:もうずっと愛用しているので、きっかけが何だったのか忘れちゃったんですよね。

――:大学時代に、ゼミの研究室に置いてあったとか、教授に勧められたという方もいらっしゃるようですが、何か思い当たりませんか?

市川さん:そうそう、大学の研究室時代に、「キーボード、何でも好きなものを買ってあげるよ」と言われて、「それなら良いキーボードを使いたいなぁ」と思い、調べたところ出てきたのがHHKBだったので、買ってもらって今に至る、という感じです。YouTubeチャンネルを始めたときと同時代に買っているので、歴としてはもう5~6年ですね。

当時、どの機種を買ってもらったのかは覚えていないんですが、今はこのHHKB Professional HYBRID Type-S 英語配列/墨モデルを愛用しています。

HHKB Professional HYBRID Type-S 英語配列/墨モデル
現在愛用しているHHKB Professional HYBRID Type-S 英語配列/墨モデル

――:実物を触る前に、手に入れられた、というわけですね。実際に使ってみてどうでしたか。

市川さん:「打鍵感、エグい! めっちゃいいやん!」というのが正直な感想でしたね。なので、HHKBシリーズを使い続けています。

――:カスタマイズなどこだわりはありますか。

市川さん:キーマップ変更などを一切せずに完全にデフォルト状態で使っています。

というのも、キー配列にそこまで強いこだわりがあるわけではなく、とにかく打鍵感の良さを魅力に感じているのが理由で使っているからです。タイピングしていて気持ちがいいからテンションが上がるし、変なノイズがないから仕事に没頭できると思っています。

作業効率よりテンションアップが選定基準

――:HHKB Professional HYBRID Type-S 英語配列/墨モデルが、しっくりハマるお仕事環境ですね。統一感があって洗練されているという印象を受けました。愛用のガジェットについても教えていただけますか。

市川さんの作業環境
市川さんの作業環境

市川さん:映像制作をしているので、カメラにはこだわっていますね。この部屋で動画を撮影するのに使っているのは、ソニープロフェッショナルカムコーダー「FX3(ILME-FX3A)」ですね。色味や暗いところでもノイズの少ない画質で撮影できます。

マイクは……そうですね、「そんなに良い音質はいらんやろ」と言われそうですが、SHURE「SM7B」を使っています。

ソニープロフェッショナルカムコーダー「FX3(ILME-FX3A)」とSHURE「SM7B」
映像制作者だけあって、映像と音質にはこだわっています。写真手前に見えるのがSHURE「SM7B」、奥に見えるのがソニープロフェッショナルカムコーダー「FX3(ILME-FX3A)」

Vlog用には、DJI「Osmo Pocket 3」が便利ですね。ジンバル機能も付いているので、機動力が高いですし、画質がそれなりに良くて被写体に追従してくれるんです。これは万人におすすめしたいVlog用カメラだと思います。

デスクワークでは、ロジクール「MX Ergo S」というトラックボールマウスを使っています。実は少し前までロジクール「MX Master 3S Bluetooth edition」を使っていたんですけど、あるときから腱鞘炎ではないのですが手首が痛くなってきてしまって。健康第一で仕事をしているので、これは看過できないなと思い、手首をあまり動かさなくて済むトラックボールマウスへと変えました。

ロジクール「MX Ergo S」
カーソル操作に使っているのはロジクール「MX Ergo S」。手首を動かさなくて済むため、疲労が軽減したといいます

ディスプレイはウルトラワイドディスプレイ一択で、DELL「デジタル ハイエンド シリーズ 49 曲面 USB-C ハブ モニター - U4924DW」ですね。これだけ横幅があると、動画編集の際にタイムラインのバーをずーっと横へ移動させられるんです。だから、横に長ければ長いほどいい。切り替えるというノイズがない分、没入できて作業効率が上がる、というわけです。

――:お聞きしていると、ストレスなく作業できるものを選んでいるという印象です。

市川さん:そうですね、僕の場合は作業効率が上がるものというより、どれだけ「テンションが上がる」か、そして「疲れにくいか」を基準に選んでいます。

私の場合、デバイスそのもので作業効率が格段に上がることはあんまりないと思っているんですよね。実際のところ、直感的に使えてノイズが少なければ疲れないし、テンションの上がるものを使っていれば集中力(フロー状態)が続く。その結果として作業がはかどり、作業効率が上がるという状態につながっているのではないかな、と思うんです。

そういう意味では、HHKBもそうですよね。さっきもお話しましたが、打鍵感が良いからテンションが上がる。ずっとタイプしていたいから作業が続く。デスクに向かうきっかけになる上、続けたいという欲求も生まれて、作業がどんどん進んでいくんです。

――:HHKBの話が出てきたところで、もう1つ、関係したことをお聞きしてもいいですか。HHKBにまつわる印象的なエピソードがあれば教えてください。

市川さん:エピソードというか、PFUさんに対してちょっと怒っていることがありまして。HHKBの打鍵感が良すぎて、他のキーボードを使おうとしても『なんか微妙だな』と感じるようになってしまったんです。出先で別の薄型キーボードを使おうとした時期もあったんですが、結局HHKBの手触りが恋しくなってしまう。他のキーボードを使えなくなってしまったので、どうにかしてください(笑)。

ちなみに、最近はキーボードの分割化が流行っていますよね。僕も分割キーボードには興味があるんですが、HHKBから離れられないので、ぜひPFUさんにはHHKBの分割モデルを出してほしいと切に願っています!

TECH WORLDを通じて行いたいこと――映像の深化と「コーヒー」という新たな選択肢

――:今後、TECH WORLDとして挑戦していきたいことはありますか?

市川さん:映像制作の観点では、より長期的なドキュメンタリー制作に力を入れていきたいですね。これまでは1~2日の密着が多かったのですが、1カ月などの長期間にわたって人や現場の変化、経年での成長を追うようなコンテンツを作りたい。そのためには、撮影・編集の技術向上はもちろん、制作・営業チームの組織拡大が急務だと思っています。

撮影風景
YouTube用の映像をどのように撮影しているかを再現していただきました。良い機材をそろえているだけでなく、光の使い方にも気を配っています

――:そして、現在新しい事業として「コーヒー」のプロジェクトが進んでいると伺いました。ITエンジニアメディアがなぜコーヒーなのでしょうか?

市川さん:これもTECH WORLDのミッションである「より良い選択肢を提供する」ことの一環なんです。

コーヒー事業と聞くと、「コーヒー豆を売るのかな?」と思われるかもしれません。でも、僕たちがやりたいのはそれだけでなく、豆の選定や焙煎に加えて「おいしいコーヒーの淹れ方」の知識をセットで提供したいんです。そのためにハンドドリップの大会で優勝したバリスタの方と提携しました。そんな情報をお伝えするサブスクリプションサービスを今春リリースしたいと考えています。

実はコーヒーって、エンジニアリングとすごく似ているんです。豆の量、お湯の温度、注ぐ速度といった「定量的な変数」を組み合わせて、無限にある正解を探していく。その過程の面白さや奥深さを、知識とともに伝えることで、人々の日常の楽しみの幅を広げたいですね。

――:とてもおもしろそうな試みですね。

市川さん:さらに、フィジカルAIの領域に詳しい知人と協力して、「簡易ロボットアームでドリップコーヒーを淹れる」というプロジェクトも進行しています。

ハードウェアの制約など課題は多いですが、5月に名古屋で開催されるITカンファレンスにブースを出展し、そこでロボットが淹れたコーヒーを提供するデモンストレーションを行う予定になっています。カンファレンスでロボットがコーヒーを淹れていたら、純粋におもしろいと思いませんか?

――:それはぜひ見てみたいですね。
最終的に、市川さんが目指すゴールとは何でしょうか?

市川さん:僕は、会社を上場させたいとか、世界を根底から変えてやる、といった壮大な野望を持っているわけではありません。ただ、僕と関わる人たちや、コンテンツを見てくれる人たちに「ちょっと良い影響」を与えたい。おもしろい仲間と、自分たちがおもしろいと思うことを追求し続けた結果として、誰かの人生の選択肢が広がったり、豊かになったりすれば、それが一番ハッピーだなと思っています。

おもしろいことをしたい、関係してくれる人たちの選択肢の幅を広げたいという軸だけはブレることなく、これからもいろいろなことに挑戦していきたいですね。

市川さん
さまざまなことに挑戦し続けていく市川さん

――:今日はお忙しい中、時間を取ってくださりありがとうございました! コーヒー事業のスタートもお待ちしていますね。

選択肢を増やして人生を豊かにするというブレない軸

自身がエンジニアであるという強みをもちながら、その枠に囚われることなく「自分にしかできないおもしろいこと」を追求し続ける市川さん。

映像メディアの運営、オフラインのコミュニティ創出、そしてエンジニアに好まれそうなコーヒーの知識を、優秀なバリスタと提携してサブスクリプションサービスとして提供したり、フィジカルAIと掛け合わせたロボットにコーヒーを淹れさせたりするコーヒー事業まで、その活動のすべては「人々に新しい選択肢を提供し、人生を豊かにする」という一本のブレない軸でつながっていました。

そんな市川さんの思考を途切れさせることなく、日々のクリエイティビティと集中力を支える道具として、HHKBを欠かせない相棒として愛用してくださっています。

「テンションが上がり、ノイズが消える」――市川さんが語ったこの言葉は、道具が人間のパフォーマンスに与える本質的な価値を見事に突いていると感じました。ITエンジニア向け動画メディア「TECH WORLD」が、今後どのような「新しい選択肢」を私たちに提示してくれるのか。市川さんのさらなる挑戦から、目が離せません。

執筆者

渡辺まりか

通電するガジェットをこよなく愛するフリーランスライター。馬が好きで乗馬ライセンスを、海が好きで二級小型船舶操縦士免許を、昔からのあこがれで普通二輪免許を取得するなど多趣味。物欲を抑えつつ、編み物をライフワークとするなどアナログな一面もある。

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