松葉製作所訪問記
~手作りのぬくもり感じる HHKBオプション制作現場を訪ねて

松葉さんと筆者の山﨑
松葉さんと筆者の山﨑

「亀甲名栗 木製パームレスト&キーボードルーフ」の故郷へ

一本一本、「HHKB専用 亀甲名栗(きっこうなぐり)木製パームレスト&キーボードルーフ(以下パームレスト)」を手作りする松葉製作所の松葉寛和さんを訪ねて、広島県府中市にやって来ました。

私筆者は、HHKBの公式「タッチ&トライスポット」として、HHKB、松葉製作所のパームレストを展示しているコワーキングスペース&シェアオフィス CASE Shinjukuのスタッフの山﨑です。
私もHHKBと松葉さんのパームレストを愛用しているユーザーの一人。
仕事中に松葉さんのパームレストを使用しているときは、どんなところで作っているんだろうと、ずっと気になっていました。その思いが通じたのか? CASE Shinjukuスタッフ一同で念願だった松葉製作所の見学が実現しました。

府中市といえば、競馬場やビール工場がある東京都の府中市を想像する方のほうが多いのではないでしょうか。訪れたのは広島県東部、中国山地の豊かな自然に囲まれたまちです。こちらの「府中」という地名は、大化の改新で備後国府が置かれたことに由来するそうです。歴史のあるまちなんですね。
現在は、繊維・機械・家具・金属などの製造業を中心とした「モノづくりのまち」として知られています。松葉製作所は、このまちで車のエンジン部品などの鋳造用木型の作製所として開業して以来78年続く木工加工場です。

新緑が美しい5月のゴールデンウィーク、私たちは、松葉さんを訪ねて、JR西日本福山駅から広島県三次市の塩町駅をつなぐ福塩線というローカル線の府中駅から車で松葉製作所に向かいました。

JR福塩線 府中駅のホーム
芦田川に架かる府中新橋を渡ります

-こんにちは、松葉さん! 今日はよろしくお願いいたします。

松葉さんいらっしゃい。ようこそ!

松葉製作所に到着「こんにちは松葉さん!」

「78年の歴史を持つ松葉製作所の機械や道具たちと職人技で作るパームレスト

工作機械や木工道具が並ぶ松葉製作所内

-機械や道具がいっぱいありますね。そして歴史を感じます。
まずパームレストを中心に材料や機械の紹介も含めて製造過程を教えていただけますか?

松葉さんはい、ではまず材料から説明しますね。
工場の裏に乾燥させた材料がストックしてあります。鋳造用の木型を作っていた時の材料もありますが、それはほとんど使わなくなっています。パームレスト用にウォールナットやブラックシードなどの木材を買っておいて、乾燥させながら置いておきます。それぞれ厚みや幅も違います。

板という字は、木が反ると書いて「板」と書きますよね。木の無垢材は絶対に反っちゃうので、こうして製品に使う薄い板のサイズに近い状態にして、干しておくんです。2、3カ月もすると反るものは反ってきます。一度、自然に反らせてから加工しないと製品になってから反っちゃうので大変なんですよ。

工場裏で乾燥させている木材

松葉さんパームレストは、ここで乾燥させた板材を挽き割りにして、2枚の板にして使います。2枚にしてさらに乾燥させるとまた反っていきます。それをまっすぐに仕上げていきます。見てください。合わせるとわかります。結構反っていますよね。

2枚の板を合わせると反っていることが一目瞭然

松葉さんこの形状で材料が落ち着こうとする時に反るので、いったん落ち着かせるために、切ったあともこうして何カ月か干しておきます。それから、削って真っすぐにしていきます。
実際に削ってみますね。

まず、プレーナーという機械で表面を削って平らにしていきます。

プレーナーで表面を削る作業
下面と縦片サイドの2面を削っていく

松葉さんそのあと、テーブルソーで幅をそろえて、自動カンナで厚みをそろえていきます。

テーブルソーで幅をそろえる
自動カンナで厚みをそろえる

松葉さん板の厚みは10ミリに仕上げています。±0.1ミリの範囲ならOKですが、今回はぴったりでした。

板の厚みを実際に測ってみると、ぴったり10ミリに

松葉さん今、表裏と縦方向の木端面(こばめん)の両サイドを仕上げたので、今度はテーブルソーで横方向の木口(こぐち)の両サイドの長さをそろえていきます。

木口(こぐち)の両サイドの長さをそろえる

松葉さんテーブルソーの刃は上下に動くので、昇降盤と呼んでいます。
縦挽き用の大きい刃と、横挽き用の小さい刃の2種類があります。繊維を断ち切る横挽きのときは細かく切れる小さい刃を使用します。刃の角度は45度まで変えられるので、斜めに切ることもできるんですよ。

刃の角度を昇降盤のハンドルを回して調整
刃の角度を斜め5度にした刃

松葉さん昨日ちょうど、Professionalシリーズ用の木製キートップの材料をカットしたところです。切った後の端材があります。

カット後に出た端材

-端材はどうなるんですか?

松葉さん何かあればまた使いますし、使えないものは地元の神事である「とんど」で焚き木にしたりします。

-パームレスト用に加工した板は、次にどのような工程に進みますか?

松葉さんここから板と脚のパーツを木型用瞬間接着剤でがっちり貼り合わせた後、パームレストの形状に仕上げていきます。コンピューター数値制御技術を用いて、ルーター(刃物)を自動で動かし、木材やアルミなどの素材を精密に切断・加工するNCルーターという機械を使います。この工程はとても時間がかかるので今回は割愛します。その後に、アートチゼルという電動木彫機を使って、表面を彫っていきます。

亀甲名栗彫刻で実際に使われている「ラクダアートチゼル」

松葉さん電源を入れると、中の軸がモーターで回転するんです。その動きを前後運動に変換し、その振動で彫っていく仕組みです。うちでは手彫り用の彫刻刀の刃をアートチゼルに付けられるように改造して使っています。結構熱を持ったり、音がすごかったりするんですけど、ずっとこれを使っています。

アートチゼル本体を持つ松葉さん

松葉さん亀甲名栗を彫るノミは、かなり平べったくて、上手く彫るのはすごく難しいんです。深く彫るぶんには簡単なんですけれども。

亀甲名栗で使っているノミ

-難しそうですね。パームレストの亀甲名栗のアールに比べてノミのアールが大きくて平べったく見えます。

松葉さんそうですね。でも実際にこれで彫っているんです。このノミの曲線で彫ったくぼみが、手を置いたときに手のひらにフィットするんです。くぼみがきれいに並ぶように亀甲模様を彫っていくのは本当に難しいんです。

最近採用した京都の伝統工芸を学ぶ専門学校で木彫刻を学んだ若い職人も練習しているんですけど、まだまだ父親のようにはできません。

-今はお父様が彫られたものが製品になっているんですね。

松葉さんはい、全部そうです。

-まさに匠の技。貴重な逸品ですね。

松葉さんちょうど今、海外から特注品を作っているところなんですよ。

-大きいですね。

手前のパームレストが海外からの特注品。通常のサイズと比べて遙かに大きい
厚みも通常サイズより2倍近くある

松葉さん厚みを8mm厚くし、奥行きを10mm増やし、長さを使用されているキーボードと同じ寸法にして欲しいというオーダーです。

-そんなオーダーがあるんですね。

松葉さんはい、減らすことは割と簡単なんですが、厚くしたり、奥行きや長さを増やしたりする場合は治具を変えないといけないんで、だいぶ高くなっちゃうんですけどね。

-厚みや長さなどのオーダーメイドにも対応していらっしゃるんですね。

松葉さんはい。ウェブサイトにはオーダーメイドのメニューもあるんですけれど、直接連絡が来る場合はその都度お見積もりというかたちで受けています。

-パームレストの工程は?

松葉さん次は、周りに丸みを付けていきます。
先ほどのNCルーターとは違い今度は手動のルーターを使います。ベアリングがついているルーターの刃があって、それが滑って断面が丸く削られていきます。

実際に機械を動かしてみますね。

ルーターでパームレストの周りに丸みを付けていく

松葉さん次にこれを手作業で研磨していきます。

-研磨は手仕事なんですね。工作機械と手作業のかけ算で、松葉製作所のプロダクトはできているんですね。

松葉さんそうですね。機械加工と手作業で、アールがきれいに繋がるように仕上げていきます。これに関してはもともと木型屋なので、3Rとか、5Rなどπ(パイ)を変えてアールを取るのはお手のものです。

R定規で丸角を測定

松葉さん手作業でアールを取る時はR定規を当てながら研磨していきます。例えば今測っているパームレストのアールのサイズは5Rなので、R定規を当てて、5Rになっているか確認します。木型を作る場合は、正確にアールが指定されていますが、パームレストはそこまでではないので、きれいに繋がることを意識して削っていきます。

木型は車のエンジン部品などを作る砂型を作るための型なんです。もう新規で作ることはないんですけれど、量産型の金型がちびたり(備後地方の方言で「摩耗する」という意味)、不良が出たりすると、金型にパテを塗って、手作業で削っていくというメンテナンスの仕事が入ってきます。
昔はいろんな木型を作っていましたが、作る品種も絞られてきました。メンテナンスも何回も直しているうちに不良が出なくなってきて、その仕事もなくなってくるんです。

-それで、それに代わる製品として最初にiPhoneケースを作られたんですね。

松葉さんはい、そうです。

歴代iPhoneケースのサンプルの数々

-パームレストはこれで完成ですか?

松葉さんはい、あとはオイルを2回塗り、仕上げの研磨をして、蜜蝋クリームを塗って拭き取って完成です。

-1本仕上げるのに、どのくらいの時間がかかりますか?

松葉さん20本作るのに、3週間くらいかかります。
乾燥させる時間なども含めると、もうちょっと長くなります。
最初の頃はもっと時間がかかっていました。

亀甲名栗木製パームレスト&キーボードルーフ (ブラックチェリー)(税込価格39,600円)
HHKB Studio専用 ジェスチャーパッドガイド&亀甲名栗木製パームレスト80mm セット(税込価格44,000円)

「木製キートップ開発秘話・地元の金属加工会社との協業で」

-次にキートップについておうかがいします。まずキートップを作ろうと思ったきっかけは?

松葉さんパームレストの人気があったので、それに関連する木製品はキートップかなと思って。

地元の金属加工会社との協業で生まれた木製キートップ

-それは技術的にできるかもしれないということで?

松葉さんうちだけだと難しいんですけど、府中の企業の力を借りればできるんじゃないかと思ったんです。

-府中の企業というと?

松葉さん金属の精密加工の会社です。結構、無理矢理お願いしました(笑)。
先ほどお話ししたNCルーターを使った加工が必要なんですけど、うちの機械はかなり(30年ほど)古くて、切削プログラムを入力する際のメモリの容量が極端に少ないので全然動かなくて…。そこをお願いしています。
金属加工の会社なので、「木は扱ったことがない」ということで…最初は難色を示されました。
硬さも違うし、金属には木目もない。それに木くずは鉄くずと違って、どこかに挟まったり腐ったりするので、金属加工会社では普通は対応しないんです。
試作を始めた当初は結構大変でした。1年くらいかけてようやく完成までにたどりつけました。

-同じまち、府中の企業と一緒に開発したとは、すてきなお話ですね。

松葉さん工程としては、まず、うちで木材をキートップ用のサイズにカットして金属加工会社に渡します。そうしたら、キートップのかたちに削ったものが組み立て前のプラモデルのような形で返ってきます。それをうちで切り離して仕上げていきます。
削られてきたキートップは、よく見ると表面がピラミッドのような段々になっているので研磨して仕上げていきます。
最初は刃物の後が残ったり、ささくれが出たり、割れたりということがあって難航しました。

-よく諦めないで製品化されましたね。

松葉さんそうですね。それはもうお互いに、何とかしよう、何とか形にしたいという気持ちがありました。絶対にニーズはあるとも思っていましたので。
そして最終的にはアルミ製のキートップも一緒に売り出そうということになりました。
まずアルミを加工して、こういう形状でいこうと決まった上で木の加工をしていきました。

-なるほど。では木製とアルミ製のキートップが同時に生まれたということですね。

シルバーのアルミ製キートップと黒檀のキートップ

「地元の家具屋と協業でワークデスク開発」

-今、ワークデスクを製作中とか?

松葉さんはい、今開発中です。
これは府中の家具工場と共同開発しています。
デザイナーさんに協力してもらって、こういうふうにしたいという思いをかたちにしていっています。

CASE Shinjukuで展示している試作品のワークデスク

-天板の下にキーボードが置けるようなスペースがありますが、それは松葉さんの考案ですか?

松葉さんはい、そうです。HHKBの収納スペースとして考えました。
その他の特徴として、天板の手前に大きなアールがついているので、長時間HHKBを打ち続けても肘が痛くなりません。

「HHKBとともに府中の町工場から世界へ」

-府中の他の企業と協業して作る製品のエピソードもうかがえて、とても良かったです。
松葉製作所だけでは、世界市場は遠いかもしれないけれど、PFUと松葉製作所、さらにほかの協業会社との連携で世界がグンと近くなるような気がしました。

松葉さんあぁ、もうその通りです。
iPhoneケースを作っていた時も海外からの引き合いはありました。しかしケースが薄すぎて、海外に到着したときには、湿度や環境などの影響で縮んだり、よれたりすることがあったので現実的ではありませんでした。パームレストも若干影響がありますが、キートップは湿度などの環境の変化はほとんど関係ないので、ぜひ海外進出をという気持ちです。

最近は継続的に海外から注文があります。アメリカがメインですが、ヨーロッパからもぽつぽつ引き合いがあります。この前はオーストラリアから初めて注文がありました。

-それは個人からの注文ですか?

松葉さんはい。そうです。

-HHKBはアメリカ支社もありますよね?そこを通しての注文は?

松葉さんアメリカ支社のサイトの上部に写真付きでリンクを貼ってもらっているんです。
(こちらから、アメリカ支社のホームページにとべます。https://hhkeyboard.us/hhkb

そこから外国の方からの流入があります。アメリカ支社のECサイト経由ではなく、購入したい方と直に取引きできる状態を作ってもらっていて、ありがたさを感じています。

-HHKB(PFUさん)にはそういう文化・風土を感じてシンパシーを感じます。

松葉さんそうですね。そして日本の匠の精神が、私たちのブランドから伝わればいいなと思いますね。

-まさにその通りですね。松葉製作所の製品から木製ならではの魅力、日本の技術力など、日本らしい良さが海外の方にも伝わると思いますし、HHKBの魅力をより知っていただくためのアイコンとしても、ふさわしいと思います。

松葉さん先日、個人の方から「黒檀のキートップをフルキーで作ったらどのくらいかかるか見積もってほしい。」という英語のメールがあったんです。「40万ほどかかります。」と返事したら「まぁ、それくらいはかかるよね。」みたいな感じで返ってきて。

-「ユーザーの声を技術力でプロダクトに」というInstagramの投稿を拝見しました。ユーザーさんからの、こういうものがほしいとか、こういうものはないですか?というリクエストに応えるかたちで製品を作っていると。

松葉さんはい、そうですね。製造業の人って、自分だけで考えたものはニーズが合っていないことが多くて、大体売れないものができてしまうんです。いろいろ試行錯誤していくうちに、ニーズを持っている人に向けてちゃんといいものを作れば、高くても売れることが分かってきました。だから基本的には、こういうものがあったらいいなという声を聞いて製品化するようにしています。

-ワークデスクもユーザーさんの声を聞いて?

松葉さんそうですね。パームレストを買ってくれた方に、「仕事環境に必要なものとして、どんなものがほしいですか?」と聞いてみたんです。そうしたらデスクのニーズが一番高かった。8割くらいの方から、良いデスクがあったらほしいと回答がありました。
合わせて「幾らだったら購入しますか?」と聞いたら、「20万円でも30万円でも出します」という方がほとんどで、なんだかすごいなぁと思って。

-お客様のニーズを汲んで、次はデスクだと。

松葉さんはい。過去に、独りよがりで作ったスピーカーは、まぁ売れませんでした。自分ではいいなと思ってたんですけどね。
スピーカーに関してアンケートも取ってみたんですが、「こういうものは基本売れないと思います」という意見をスピーカーに何百万もかけているオーディオマニアからいただきました。まぁそうですよね、という感じです(笑)。

木製スピーカー

-すごくかっこいいですけどね。松葉製作所さんは小規模でも、高い技術力と存在感を持つ小さな巨人みたいな会社だと思います。自然にそうなっていっているという感じですか?

松葉さんまぁそうですね。例えば、すごい高い製品が売れたり、高い給料が出せたりとか、こういう地方でも、すごい会社があるなという感じになったらうれしいです。

-いいですね、世界に名をとどろかせる松葉製作所。

松葉さんそう。世界に向けて発信できたらうれしいなと。府中でも、その周りでも、地元に帰ってきて就職しようかなみたいな人が増えたらいいなとも思います。

-そうですよね、そういう事も含めた“Small Giant”ということですね。貴重なお時間・お話をありがとうございました!

見学後、松葉さんのお誘いで、高校の同級生が営まれている府中市のローカルフード「府中焼き」の「大蔵屋」へ。
「府中焼き」は「広島焼き」と作り方は似ていますが、「もやしを入れない」「牛や豚の挽肉」を使うところが違うのだそう。
千切りキャベツがたっぷり入っていてとてもジューシー、外はカリッと中はふんわりしていて、食べ応えのある逸品でした。

毎日でもいただきたい府中市のソウルフード
松葉さんとCASE Shinjukuの社長の森下が通っていた広島県立府中高校です

【取材を終えて】

松葉さんとは、社長の森下が高校の同窓生だったことから、CASE Shinjukuのオープニング時に来ていただいて、iPhoneケースの展示イベントを開いていただいてからのお付き合いです。

またCASE Shinjukuは公式のHHKB「タッチ&トライスポット」にしていただいたご縁で、松葉製作所のパームレストも展示させていただくことになりました。

そんなご縁が重なって実現した今回の松葉製作所への訪問は、まさに“つながり”の中で生まれたミラクルでした。
こうしてPFUさんの「HHKB Life」で紹介させていただけることにも不思議なご縁を感じます。

「仕事って面白いな」「人生にはたくさんの可能性があるな」——そんなことを改めて感じさせてくれた出来事でした。

つながっていくご縁は、きっとこれからも続いていく。
HHKB × 松葉製作所という素敵なタッグに、これからもときどき加えていただけたらうれしく思います。

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