病理医/ウイルス研究者の峰宗太郎さんは月間30万字をタイプする
自称“入力中毒”のHHKBヘビーユーザー

病理医/ウイルス研究者の峰宗太郎さんは月間30万字をタイプする
自称“入力中毒”のHHKBヘビーユーザー

2022年5月26日公開

※本記事は2022年1月13日に取材を行い執筆したものです。


新型コロナウイルスに関する確かな情報発信によって信頼と尊敬を集める病理医の峰宗太郎さんが、HHKBの愛用者であるという情報をキャッチ。 アメリカのご自宅と日本をリモートでつないで、そのヘビーユーザーぶりとHHKBを使う理由をうかがいました。


自宅と職場の両方にHHKBを置き、朝から晩まで文字を打っている

峰宗太郎さんはアメリカの国立研究機関で博士研究員を務める病理医/ウイルス研究者です。 本業の研究に加えて、コロナ禍に関する取材対応や原稿執筆、SNSでの情報発信と忙しい日々を送る峰さんは、HHKBをどのように活用しているのでしょうか。 現在の機種や使用状況から教えてもらいましょう。


「今は自宅と職場、それぞれに『Professional Hybrid Type-S』を置いて使っています。 自宅にはアメリカに来たときに持ってきた『Professional Classic』もありますが、最近『Professional Hybrid Type-S』を手に入れたので、現在はそちらを愛用中です」

ご自宅で使われている「雪」モデル

自宅デスクに置かれた『Professional Hybrid Type-S』(手前)


もともとの愛機が有線接続専用の「Professional Classic」だったという点に、峰さんならではのこだわりを感じます。なぜ「Professional Classic」を選んだのでしょうか。

「理由は単純で、『有線だとディレイが発生しない』と信じ込んでいたから。昔の経験から、ほんの少しでも遅れが発生するのがいやだったんですね。 でも自宅で『Professional Hybrid Type-S』を使ってみたら、Bluetooth接続で全然問題ないことがわかりました」

「ディレイが発生すると困るのは、プログラミングではなく長い文書を書くときですね。特に最近はクラウド上の共同作業で文字を打つことが多いでしょう。 するとweb経由なので、有線のキーボードであっても基本的にディレイが起こりがちでした。 そこに無線のディレイまで加わると文字が出るのが遅れてしまい、とてもいやな状況になってしまいます。でも『Professional Hybrid Type-S』のBluetooth接続ではディレイを感じないので、パソコンも周辺機器も、すごくレベルアップしてるんだなと実感しています」

自宅近くの風景

自宅近くの風景。静かな環境の中で峰さんは研究生活を送っています。


一方、職場では機密性の高い研究機関であるという事情もあり、「あまり電波を飛ばしたくない」という思いから、あえて有線で接続しているそうです。

「それに職員証のスマートカードを読めるリーダーが付いたキーボードが必要なため、カードリーダー付きの一般的なキーボードとHHKB、2台を使い分ける形になっています。 僕は仕事でExcelを使うことが非常に多く、その際はテンキーの付いた一般的なキーボードでバーッと済ませちゃうことはありますね。 でもプログラミングをするときや長く文章を書くときに使うのは断然、HHKBです」

「自宅にもテンキー付きの一般的なキーボードはありますが、手元に置くのはHHKBです。 iPadを置いてドラマを観ながら、Kindleで本を読みながらというように、だいたい何かをしながら並行して入力作業を進めていることが多いですね。 学会などでホテルに宿泊するときは、小さなノートパソコンやiPadにHHKBをつないでいます」

自宅のデスク全景

自宅のデスク全景。入力内容によっては一般的なキーボードを使うこともあります。


自宅と職場の別を問わず「座ればHHKBがある」という状況は10年以上前からずっと変わらないとのこと。いつも手元にあるHHKBで、峰さんは「すごく文字を打つ」といいます。

「僕は本業のほうで、『R』という言語と『Python』という言語でプログラムを比較的たくさん書きます。それと日本語の文章も、まぁ……大量に書きます。 たとえば今、『こびナビ』という新型コロナワクチンの情報提供をするグループ活動をしていたり、複数の著者による本の執筆に携わっていたりしているほか、立ち上げた団体の定款を作るというような仕事もあります。 これらはもうメールでのやり取りではなく、クラウドで共有している本体のファイルにアクセスして入力したり編集したりする方式になっています」

「そのほか、コロナ関係で依頼を受けたものをはじめとする原稿の執筆や、取材して書いていただいた原稿に修正を加える仕事などもあります。 SNSはiPhoneで書くこともありますが、デスクの前にいるときはHHKBで入力しています。 こういう調子で朝から晩まで文字を打っているので、僕がパソコンの日本語入力システムとしてずっと使っているATOKによれば、毎月15万字から18万字を打っているようです。 でもそれは自宅だけの統計ですから、職場と合わせると30万文字くらいでしょう。これはもう“入力中毒”ですよね」

出会った瞬間の感動が今もずっと続いている

では、峰さんはいかにして“入力中毒”になり、いつHHKBと出会って、そのとき何を感じたのでしょうか。

「小学校1年生のときにはPC-9800シリーズのパソコンを使って『N88-BASIC』でプログラミングをしていました。そのあと『COBOL』『FORTRAN』を使うようになって、中学校の頃は 『Microsoft Macro Assembler』、高校生になるとゲームや事務処理のプログラミングのために統合開発環境を使うようになるという具合に、ずっと趣味としてプログラムを書いてきました」

「それから最初の大学(京都大学薬学部)のときに試験対策委員をやって、このときにとにかく文字を打ったんですよ。 試験対策委員というのは有志が自主的になるもので、過去の試験問題を集めて、まとめて解説を作って、冊子に印刷して学年全員に配る、そういう活動です。 僕は当時にしては珍しく、初期のScanSnap、モノクロのレーザープリンター、コピー機とFAXとプリンターが一つになったマシンを持っていて、それらをフル活用して冊子を作っていました。 出始めたばかりのデジカメで講義の板書を撮って編集するということもしていましたね」

峰さんの記憶によると、この頃にHHKBを店頭で見かけて初めて知ったはず、とのこと。

「キーボードの接続コネクタの主流がPS/2からUSBに移行した時代で、僕自身はプログラミングを『C++』で行うようになっていました。 その頃になんとなく『キーボードにこだわってみようかな』という気になって大阪梅田の電器店に行ったらHHKBが置いてあって、触ってみて驚いたんですよ」

「当時、使いやすいキーボードというコンセプトの製品はいくつかあったように思いますが、みんなカチャカチャしていて今ひとつでした。 ところがHHKBは打ち心地が全然違っていて、シュコシュコシュコっという感じじゃないですか。 なんて打ちやすいキーボードなんだろうと感激しました。と同時に、『すげえ高えな!』と(笑)。 当時は学生で、あまりお金を持っていませんでしたから。 でも、そのときだったか、お金を溜めてからだったかは忘れましたが、とにかく僕はHHKBを買ったんです」

こうして峰さんは、プログラミングに冊子作りにと、HHKBを高い頻度で使うようになりました。 以来、名古屋大学の医学部で忙しかった約1年間を除いて、「ずっと何かしら文字を打っている生活」を続けているといいます。

「HHKBは今のモデルで9台目です。ここに至るまで、最初に触ったときの感動がずっと続いているような感じですね。 それに僕は朝から晩までキーを叩いているので、キーボードは頑丈じゃないとだめなんです。 HHKBはその点でも最高。スペースキーが頑丈なのが特に気に入っています」

「HHKBを使うことで、自分が打つときのクセがだんだんなくなってきた気がします。 HHKBの角度がすごくいいんですよね。 僕は傾き調整用の脚を出さずに使っていて、その角度が僕の手首にはすごく合っているみたいです。 姿勢や手首の使い方などは人によって違うと思いますが、僕の場合はHHKBがいちばんストレスなく、負荷を感じることなく打てるという実感があります」

HHKB「雪」モデル

自らプログラムをコーディングして膨大な実験データを解析

ところで、峰さんが長く携わってきたプログラミングは現在、本業の研究に役に立っているといいます。 病理の研究とプログラミングがどう結びついているのか、聞いてみましょう。

「僕の専門は、ウイルスなどの病原体に対してヒトの免疫がどう振る舞うかの研究です。 たとえばどういう実験をするかというと、免疫細胞を入れた試験管を2つ用意して、1つは何も刺激しないまま置いておき、もう1つにはウイルスなどを入れて刺激します。 それを一定の時間が経過したところで回収して、遺伝子情報を全部読んで、どういうタンパク質をどのくらい発現しているかとか、発現状況がどういうパターンで変化したかなどを見ていったりするわけです」

「今は実験のデータがバーッと遺伝子のリストになって出てくるような時代ですから、今度はそれをコンピューターに入れて、どの遺伝子が増えてどの遺伝子が減るのか、どういうタイミングで増えてどういうタイミングで減るのか、あるいは時間や細胞の種類の違いによってどう変わるのかというようなことを全部見て、細胞が病原体に対してどう反応したかを解析します」

実験データの一部

実験データの一部


その詳細まではイメージできなくても、膨大な量の計算が必要になるであろうことだけは想像がつきます。

「そうですね。既存のGUI(グラフィック・ユーザー・インターフェース)ソフトだけでは全然追いつかないので、やはり自分でプログラムをコーディングしなければなりません。 ですから、やっぱり文字をすごくたくさん打つことになって、キーボードを手放せないんですよね」

「今はすごい時代で、クラウド上でコードを書くこともできるし、スーパーコンピューターに近い能力を持ったマシンを時間で借りて処理をしてもらうこともできます。 手元にあるパソコンの能力に依存しているわけではないので、いろいろなことができるんですよ。 だから僕は実験屋として、実験データを解析するのに出来合いのソフトを使うのではなく、自分でコードを書いてやってみることにしています」

峰さん自身によるプログラムの一例

峰さん自身によるプログラムの一例


人体という宇宙で何が起こっているかを突き止めるために、多大なエネルギーと時間を費やして実験・プログラミング・解析を繰り返す。 そうした科学者の地道な努力で私たちの健康が保たれているのだと思うと頭が下がります。

「いえいえ、僕自身プログラミングは最低限のことができる程度です。だから本に教わりながらやっています。 最近はコーディングの優れた入門書がたくさんあるんですよ。今もデスクに積み上がっていますけど(笑)。 とにかく本からアイデアを借りてくるのは大事。それから、上手い人のやっていることを真似る、これも大事。 そしてやっぱり、いい気分で仕事をすることがすごく大事なんです」

自宅の書棚

自宅の書棚。専門分野の本とプログラミングの技術書がぎっしりと収められています。



HHKBは自信を持っておすすめできる「間違いのないキーボード」

いい気分で仕事をすること、つまり仕事の環境を整えることにおいて、HHKBはとても重要な役割を果たしています。

「なにしろ『高級』キーボードですから。高級感があって自分のお気に入りでもあるものを使うのは、すごく気分がいいじゃないですか。 そういうメンタル上の効果は大きいと思います。入力自体はパソコンに付属しているキーボードでもできるかもしれませんが、HHKBを使うと気分が全然違います」

「HHKBは基本性能がしっかりしていて壊れにくい、これも非常に重要なことです。 物というのは必要なときに限って壊れるんですよ。 年賀状を印刷しているときに限ってプリンターが壊れるようなこと、昔はよくありましたよね(笑)。 でもHHKBは壊れないということが長年の経験からわかっているので愛用しています」

アメリカの職場で、同僚に「そのキーボードは何だ?」と聞かれることもあるのでしょうか。

「ええ、聞かれますよ。僕は日本からおもしろいグッズを持ってくる男だと思われていますから、なおさらです。 たとえば段ボール箱を開けるための『開封のこカイちゃん』とか、軽く切れるはさみの『フィットカットカーブ』とか、小さい力で何枚も留められるホッチキス『サクリフラット』とか(笑)、そういう文房具などをアメリカ人はすごく喜びます。 『こんな便利なものがあるのか』って」

「だからHHKBにも食いついてきて『それは普通のキーボードとどう違うんだ』と言うので、触らせるとみんな『スゲー、スゲー』って驚きます。ただ、値段を聞くと『クレイジーだ!』って言いますけどね(笑)。『そりゃ高級品だな』って」

ところで、コロナ禍になってからはなおのこと、デスクの仕事環境を整えることが重要になっているようにも思えます。

「落ち着いて仕事をするためには、いいものを使うというのが原則ですから。僕は文房具マニアでもあるし、デスク環境を整えることにずっと生き甲斐を感じていて、それ以外にはほとんどお金を使いません。 パソコンの周辺機器とかデスク回りを徹底的に好きなもので固めたいんですね。そのこだわりをキーボードに向けた結果がHHKB。 コーディングする人や文字をたくさん打つ人には自信を持っておすすめできる、『間違いのないもの』です」

ではインタビューの終わりに、峰さんがHHKBに今後望むことや、「あったらいいな」と思う機能について聞きましょう。

「HHKBのよいところとの兼ね合いの問題になるので難しいところですけど、やっぱりテンキーが欲しいんですよね。 プログラミングしてるときは上段の数字キーで全然かまわないんですよ。 でもデータ処理系の仕事にはExcelが付き物ですから、やっぱりテンキーがあると便利だなというのがありますね。 でも、それ以外は全然、文句なしです。シンプルだし計算され尽くしているし、他とは質が違いますから」

新型コロナウイルスのオミクロン株流行の只中(2022年1月中旬)、公私ともに忙しさを増しているタイミングでのインタビューでしたが、とても楽しく貴重なお話を聞かせていただきました。 峰さん、ありがとうございました。

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[プロフィール]

執筆者
石川光則(柏木光大郎)

編集者、株式会社ヒトリシャ代表。高畑正幸著『究極の文房具カタログ』やブング・ジャム著『筆箱採集帳』の編集、ANA機内誌『翼の王国』の編集執筆など、出版物やwebを中心に活動。
編著に『#どれだけのミスをしたかを競うミス日本コンテスト』(KADOKAWA)がある。

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