note作家・猫山課長さんはロスジェネ世代の仲間に向けて、祈りにも似たメッセージをHHKBで綴り、発信する

猫山課長がHHKBを使ってnoteを書く様子

金融機関に勤務する現役の課長でありながら、副業として綴る「note」でブレイクを果たした“半径5mの見え方を変えるnote作家”こと「猫山課長」さんは、執筆の道具としてHHKBを愛用しています。独自のポジションからのHHKB評をうかがいました。

「月曜日がつらい」と感じる同世代の伴走者になりたい

――2021年の8月にスタートした「note」での発信がブレイクし、一夜にして有名note作家の一人に。短期間でかなりの変化を経験されたのではないでしょうか。

猫山課長さん 人生ががらりと変わりましたし、今なお変わり続けている実感があります。

――noteは突然思い立って始められたのでしょうか。

猫山課長さん いえ、むしろ戦略的にスタートさせています。僕は会社に勤務しながら何かを発信したいと以前から考えていたので、まずTwitterのフォロワー数を増やしていくところから始めました。会社員ではない別の自分を確立させて、なおかつある程度マネタイズしていくために、まず必要なのは発信力です。そう考えてTwitterを頑張り、フォロワー数が4000人を超えたあたりで「そろそろ機は熟した」と判断し、noteでの発信に踏み切りました。

マスクを着用している猫山課長
猫山課長さんは勤務先に副業申請をして正式に許可を受けた上でnoteでの発信などを行っていますが、副業ではお顔を出すことを控え、イベントの登壇時(右)などは猫のマスクを着用しています。

――猫山課長さんの文章は短く明快なセンテンスで構成され、主旨を汲み取りやすいので人気が出るのも当然という気がします。もともと文章を書くことがお好きだったり、文筆の道を志されたことがあったりしたのでしょうか。

猫山課長さん 特にそういうこともなく、我流で書いているだけです。ただ、noteは書体や行間などが非常に読みやすく、文字を読ませるプラットフォームとして優れています。幸い、そのカラーに自分の特性がマッチしたのかもしれません。

――“半径5mの見え方を変えるnote作家”というキャッチフレーズには、どのような想いが込められているのでしょうか。

猫山課長さん 僕が読者として想定しているのは、ひと言でいえば「仕事と人生に苦しんでいる同世代」、すなわち“半径5m”の物事や出来事を「つらい」「苦しい」と感じる、いわゆるロスジェネ世代です。僕はその伴走者の立場から、半径5mの理解を深めて見方を変え、少しでも優しくなって楽になろう、そして世界がもっと自由であることに気づいて、自分をよりよい存在にしていこうという、いわば“祈り”みたいなものを込めて書いています。

たとえば、僕が勤務している金融機関の仕事は非常に厳しく、きついものがあります。その中で僕も苦労してきましたが、僕の部下はもっと苦労しています。象徴的なのが“月曜日”です。支店長をしていた頃、月曜日の朝礼に立つと部下が死んだような目をしているわけです。それを見て「人生は楽しく生きるべきなのに、できていない。それは世界に対する理解が足りないからではないか」と考え、だったら身の回りから変えていこうと思いました。ですから、僕がnoteでの発信に至った最初のきっかけは“月曜日の部下の目”といえるかもしれません。

HHKBのキーは押し返すようにして指をアシストしてくれる

――ロスジェネ世代への想いを込めたnoteを、猫山課長さんはHHKBを駆使して綴っているとうかがっています。note以前からのHHKBユーザーだったのでしょうか。

猫山課長さん いえ、noteを書き始めてからキーボードをHHKBに替えました。当初はMacBook Airのキーボードでパチパチ打っていましたが、やはりストロークの浅いキーだと指が痛くなるんですね。それで「これから本気でnoteを書いていくからには、キーボードはよいものを買ったほうがいいんじゃないか」と考えたとき、思い出したのがHHKBでした。

――それ以前にHHKBと出合ってはいたのですね。

猫山課長さん 若い頃、秋葉原の電気店で触り心地が劇的によいキーボードを見つけたことがあり、それが今思えばHHKBでした。「なんだこのキーボードは」と思って値段を見たらかなり高価で、当時はとても買えませんでしたが、アルファベット4文字の名前だけでも覚えて帰ろうと思いました。そのときに残った強烈な印象が蘇ってきて、いろいろ調べたところ「HHKB、これに間違いない」と。

実はnoteを始めてからも、最初はHHKBではなく中国製の“赤軸”キーボードを購入したんですよ。それはそれでよかったのですが、数千円の赤軸にするだけでこんなによいのだから、いろいろな記事で「キーボードのゴール」と書かれているHHKBにしたらどうなるんだろう、徐々にランクアップするくらいならゴールしたほうがいいじゃないかと思ったんですね。それでついに買ったのが「HHKB Professional BT」です。

猫山課長の「HHKB Professional BT」の写真
猫山課長さんにとって最初のHHKBは「HHKB Professional BT」(2016年発売)でした。

――現行の「Professional Hybrid」シリーズではなく、あえて「BT」にしたのですね。何か理由があったのでしょうか。

猫山課長さん 販売価格が3万円以内だったので。つまり、そこに至っても僕はなお“日和った”わけです(笑)。でもこの「BT」がまたすごくよかったんですよね。だから本当に気に入っていましたが、今度は「Professional Hybrid Type-S」という最高機種にしたらどういうことになるのかと思い始めて、我慢できずに結局「Hybrid Type-S」の墨モデルを買いました。さらに最近、「hybrid type s」の雪モデルも手に入れまして、現在はこの「雪モデル」が僕のメインキーボードになっています。

――なんと、3台持ちでしたか。

猫山課長さん ええ、2023年1月に香川県の高松で講演したときには3台を持っていき、イベント会場に並べて「自由に触ってください」という「お触り会」まで開きました。

手前から「HHKB Professional Hybrid Type-S」の墨モデル、同じく雪モデル、「HHKB Professional BT」の写真
愛機3台の揃い踏み。手前から「HHKB Professional Hybrid Type-S」の墨モデル、同じく雪モデル、「HHKB Professional BT」。

――HHKBをそこまで気に入られた、最も大きな要因はなんでしょうか。

猫山課長さん 「キーの跳ね返り」ですね。指を次のキーに移すとき、押していたキーがアシストしてくれるような感じといえばよいでしょうか。指を戻すのに自分の力だけではなく、キーが押し返して補助してくれるので、打っていて楽なんです。自転車の電動アシストではありませんが、これがもう本当にたまらない感覚で、ほかのキーボードを使おうという気がまったく起こりません。

――キー配列は英語配列をお使いですね。以前からの英語配列ユーザーですか。

猫山課長さん そうです。Macもずっと英語配列を選んで買っていました。日本語配列で平仮名がキー上にあるとあまり美しくありませんし、HHKBの場合は日本語配列の「BS(BackSpace)」が英語配列の「Delete」より少し遠くなります。なんといっても英語配列は左右対称に近くなって、キーの数が少ないためミニマルな美しさがあると思います。

猫山課長がHHKBでタイピングする様子
noteは主に自宅で執筆しています。キーの跳ね返りをはじめ、HHKBには執筆に欠かせないメリットが多々あると猫山課長さんは言います。

――note執筆に際してHHKBを使うメリットを挙げていただけますか。

猫山課長さん 実際メリットだらけですが、まずは「触っていて気持ちがよいので文章を打ちたくなる」ということですね。キーボードを触りたくなれば、もう文字を打つほかないですから。それに「HHKBを前にすると気合が入る」ということも確実にあります。一定の読者がついてくれているので、襟を正すというか、背筋を伸ばしてHHKBで発信していこうと。これはもう習慣化されていますね。

そしてHHKBを打ち始めると、先ほどの跳ね返りもさることながら、静電容量無接点方式ならではのリニアな感覚があって、これがもう絶妙です。カチカチしたスイッチにはない柔らかさがあって、指にやさしい。どれだけ打っても疲れないし、「指が喜んでいる」という感じがします。

HHKBがロスジェネ世代の人生を変える一助となるかもしれない

――勤務先でもHHKBを使っているのでしょうか。

猫山課長さん 使っています。複数台を持つようになったのは、会社にHHKBを置きたくなったからでもあります。勤務先ではルールで無線接続できないため、「Hybrid Type-S」の墨モデルを有線で接続しています。

――お仕事では数字の入力が多いのでは?

猫山課長さん 今はコンサルティング系の部署にいるので、以前のように数字をバチバチ打ち込む作業はほとんどなくなりました。数字が必要な資料作りは部下が全部やってくれています。僕が打つのはお客様との交渉に関する文書や、社内の稟議資料など、人とコミュニケートして説得するための文書ですね。

――力のある文章を作成することが仕事でも求められているのですね。

猫山課長さん はい。HHKBのおかげで、仕事で長文を打つのもいやではなくなりましたし、仕事のデスクにHHKBがあるとそれだけでテンションが上がります。周囲から「かっこいいキーボードですね」と言われることもあります。僕は会社支給の透明なデスクマットもお洒落なフェルト製に替えているので、僕のデスクだけ「素敵なオフィス」みたいな感じになっていますね(笑)。もちろん私物を使う申請をして、許可を得てやっています。

キーボードって、インプットデバイスの中でいちばん触るものですよね。僕が少しかじっている登山では肌に触れるベースレイヤーにはお金をかけろといわれていて、実際に1万円くらいの肌着を着るとパフォーマンスが大きく上がります。キーボードもそれとまったく同じで、お金をかけるだけの価値があります。よいキーボードなら何千万回と打鍵できるでしょうから、むしろコストパフォーマンスが高いともいえます。なにより使っていて気持ちがいいので、日々の仕事が楽しくなりますよね。

猫山課長の勤務先のデスク周りの配置図
勤務先のデスクを猫山課長さんご自身に図示していただきました。「ごくシンプルで、ほかに置くのはミントタブレットくらい」とのことですが、キーボードとマウスをお気に入りのものにするだけで仕事のパフォーマンスや気分が大きく上がります。

――勤務先でHHKBを使ったり、デスクをお洒落な雰囲気に変えたりすることは、“月曜日”のつらさに象徴される問題に対する、小さな解決でもあるように思えます。

猫山課長さん まさにその通りなんですよ。僕自身、月曜日がすごく嫌で、次の土曜日に向かって耐える人生、7日のうち5日が苦しい人生ってなんなんだろう、まるで週末から週末に頑張って飛ぶ渡り鳥みたいなものじゃないかと思っていました。でもそれは自分が選択した人生だから、自分で変えることもできるはずです。

そこで強く提案したいのが「まずは当たり前だと思っている日常を変えていこう」ということです。そのときにHHKBを持ち込んだり、デスクの雰囲気を変えたりすることから始めるのは間違いなく有効だと思います。僕は自分でそうしましたし、会社に副業申請をした上でnoteでの発信なども行っています。これは勤務先で初めてのことだったはずです。僕の今の気持ちとしては「俺は行けるところまで行くから、骨は拾ってくれ」というところですね。

――HHKBが猫山課長さんと、同世代の悩める方々の一助となれば幸いです。本日はありがとうございました。

[プロフィール]

猫山課長のプロフィール画像

猫山課長

Note 猫山課長:https://note.com/nekoyamashiten

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