HHKBユーザーミートアップ Vol.7が開催! HHKBEER片手にHHKB Studioの開発秘話から活用術まで大盛り上がり
2023年10月25日、ベルサール神田でHHKBユーザーミートアップ Vol.7が開催されました。この日はHHKBの新モデル「HHKB Studio」の発売日で、深夜0時にリリース。PFUダイレクトでは完売、X(旧Twitter)ではトレンド入りをしました。
HHKBユーザーミートアップの第3回から昨年の第6回までは12月10日前後に開催されていたのですが、今年は10月開催です。もちろん、新製品の情報は世に出ていなかったのですが、HHKBファンは何か勘づいていたのでしょうか、参加費3,000円にも関わらず、100名の募集はあっという間に埋まりました。
13時からはマスコミ向けの発表会があり、筆者はそちらにも参加したのですが、ミートアップとはまた雰囲気が全然違いました。みんなワクワクしているのがわかります。19時にスタートし、まずはPFU販売推進統括部長の山口さんより挨拶がありました。
「お気付きの通り、今日0時に新商品を発表させていただきました。本日はHHKB新シリーズ「HHKB Studio」を皆様にご体感していただきますので、楽しんでいただければと思います」(山口さん)
続いてはHHKBの生みの親である和田英一先生からのビデオレターが再生されました。
我々の周りにある道具や装置は、時とともに色々な機能を追加し、進化し、寿命を延ばしてきました。例えば自動車。最初は走るだけの道具でしたが、その後、ワイパーやクラクション、ウインカーを搭載し、便利になり、今ではぶつかる前に停まるまでになりました。もうそのうち空を飛ぶんじゃないかと言われています。携帯電話もそうですね。最初は送話受話専用の機械でしたけども、今は写真を撮ることもでき、自分がどこにいるのかもわかる万能情報処理ツールです。
そういう意味では、ハッピーハッキングキーボードはどうか。初めはアスキー文字コードの入力装置に過ぎませんでしたが、Bluetoothが使えるようになり、少しずつ進化してきました。ところが、今回発表されたHHKB Studioはポインティングスティック、マウスボタン、ジェスチャーパッドなどが使えるようになり、万能手動入力装置へと大変身したと思います。これにより、画面上の位置を指定することの多い画像処理作業は、結構便利になったと思われます。また、反対に、こういう入力装置が出現したことにより、画像処理システムもまた進化していくでしょう。
携帯電話がスマートフォンになったように、HHKBもスマートHHKBになったかと思われます。一方、私は年を取るに従って、だんだんキーボードを酷使する機会が減ってきました。画像処理もほとんどやっていませんので、私としては、HHKB Professional HYBRID Type-Sがあれば十分で、しばらくはこれ使うつもりです。こちらのシリーズも販売が続くそうで、安心しています。
PFU先進技術開発部のマネージャー 笠原さんが登壇し、企画・開発にあたっての想いを語りました。
「多分皆さんも、突拍子もないものが出てきたぞ、と驚かれたと思います。Professionalはプログラマーをターゲットとして、手の動きを最小化することによって、文字を高速かつ正確に打つというのが根っこにあるコンセプトです。HHKBが誕生した1996年当初はキャラクターインターフェースでしたが、GUIになり、今ではVR/ARという世界になっています。果たして、この先も今のHHKBのままの姿でいいのか、と考える時が来ました。そこで、今回作ったのがHHKB Studioです」(笠原さん)
HHKB StudioはHHKB Professionalのコンセプトはそのままに、さらにモダンなコンピューティング環境に合わせて進化しています。ホームポジションのキーから手を動かすことなく、あらゆる入力操作ができるようにしました。
「F」と「J」キーの間にポインティングスティック、スペースキーの下にはマウスボタンを搭載しています。両側面と手前側左右の4カ所にジェスチャーパッドも搭載し、指でなぞることで様々な操作が行えるようになっています。手を動かして他のデバイスを操作するのではなく、キーボードにまとめることで素早く扱えるようになっています。
「多機能化するとノイジーなデザインになりがちですが、HHKB Studioはミニマルなデザインに仕上げることができました。僕はPFUアメリカで企画・開発をしていたのですが、その時に、サンフランシスコにあるHuge Designという、「GoPro」を手掛けた会社と一緒にデザインを作り上げました。クリエイターの方たちが深い思考で創造的なこと考えてる時に、ゾーンを乱さないように、なるべくノイズのないデザインを目指しました」(笠原さん)
HHKB Studioはとてもローコントラストでミニマルなデザインになっており、大きく変化はしているものの、HHKBであることは一目でわかります。Studioと名付けたのは、クリエイターが自分の仕事部屋に様々なツールを固めるところから命名しました。
もう一つ大きな変化が、キースイッチに静電容量無接点方式ではなくて、モダンなメカニカルキースイッチを採用したことです。押し心地はとてもスムースで、打鍵音もとても静かです。
「HHKB Professionalは依然として最高峰の一つです。それとは別に、違う分野のグラフィカルなインターフェースを統一するために、HHKB Studioを共存して出していくことになります」(笠原さん)
AdobeツールでHHKB Studioを使い倒す妙技を紹介
特別講演では20年以上に渡ってAdobeの公式インストラクター、エバンジェリストを務める女優/ナレーター/料理研究家/日本舞踊家というジェネラリスト 大倉照結さんが登壇しました。
日々、IllustratorやPhotoshop、InDesignといったツールを使って、プレゼン資料をはじめ様々なクリエイティブを行っていますが、その際、ショートカットキーを色々と駆使して時短しているそうです。そんな時に、使う端末をWindowsとMacで変えると、ショートカットキーが変わってしまい、誤入力してしまうことがあります。
「そんな時、HHKB Studioはプロファイルを切り替えられるので、どんな風に使ったら自分の仕事が楽になるか、と色々と試してみました」(大倉さん)
1つ目のプロファイルにはWindowsの設定を割り当てています。Macのコマンドキーと同じ位置にコントロールキーを配置しています。普段それほどWindowsキーを使わないとのことなので、左の小指で触れるファンクションのところに割り当てているそうです。仕事がら、色々な記事を書いたり、資料を作成際にスクリーンショットを撮ることが多いので、そのキーも設定しました。
「今回目玉であるジェスチャーパッド、私はWindows環境の場合、左側には画面ズーム、手前の左右にアンドゥ、リドゥ、右側には各アプリケーションを切り替えられる設定にしてあります」(大倉さん)
2つ目のプロファイルはMac用にカスタマイズし、3つ目はAdobe用として使っています。4つ目にはPremiereもしくはInDesignにするか悩んでいるそうです。
実際に、女性の顔写真から吹き出物の跡を消すデモを行ってくれました。ブラシサイズをジェスチャーで調整し、3つのキーを使うショートカットを1つのキーに割り当てて、ポインティングスティックでスクラブズームを行うなど、HHKB Studioを使い倒していました。
「私がHHKB Studioを使って感じた魅力は大きく4つ。今日は皆さんのカスタマイズをお伺いし、色々と試そうと思っています。皆さんもぜひ参考にしていただけたらなと思います」(大倉さん)
HHKBエバンジェリスト4名によるトークセッション
HHKBオリジナルビール「HHKBEER」で乾杯した後は、スペシャルトークセッションが開催されました。登壇はHHKBエバンジェリストである、プログラマー 有山圭二さん、電気設計 ぺかそさん、プログラマー びあっこさん、プロフットバッグプレイヤー 石田太志さんの4名。モデレーターは山口さんです。
登壇した4人はHHKB Studioの開発にあたり、意見を出していただいた方々です。最初にHHKB Studioを見たときのファーストインプレッションはどうだったのでしょうか?
「ファーストインプレッションは、突然親が決めた許嫁が目の前に現れた感じです。そんなこと急に言われても、と思ったのですが、話が進むにつれ、人となりがわかってきていいなと感じるようになりました」(有山さん)
「PFUの本社に伺って、初めて見ました。やっぱりデザインがものすごくかっこよく、しびれました。X(旧Twitter)でも皆さん気になっているようですが、実際に打ってみると、打鍵感がとてもいいんですよ」(石田さん)
「私好みの配列であるHHKB配列と、ポインティングデバイスが合体したらどうなるんだろうと。どうにかなっちゃったんですけど、最高のものが合体したら、もう最高ですね、というのが1番の感想です。とはいえ、開発中の実機を触った当初は、これ大丈夫か?と思いました」(ぺかそさん)
「キースイッチがメカニカルらしいという話は伺ったんですけど、出てきたのがメカニカル以外(の要素)も多くないか?と思いました。最初は、何かとんでもないことをし始めたな、というのが正直なファーストインプレッションです。最終的に完成した製品を見ると、最初から狙いが正しかったんだな、と感じました」(びあっこさん)
話題はやはり、キースイッチに関して盛り上がりました。HHKBは長らく静電容量無接点方式を採用していましたが、HHKB StudioではCherry MX互換メカニカルキースイッチを採用しています。しかし、皆さん、口をそろえて打鍵感がよいとのことでした。
「リニアでメカニカルなのにめちゃめちゃ触り心地がHHKBなんです」とびあっこさん。
一方、有山さんあまりキースイッチにはこだわりがないとのこと。それもそのはず、高校生時代に触れた最初のHHKBはメンブレン方式だったのです。
「メンブレンの時代よりも、今の静電容量無接点方式の方が歴史が長くなり、それこそが至高というお客さまもいらっしゃいます。一方、意外とリニアスイッチもいいという人たちも増えてきており、多様性が高まる中で、キースイッチを選べるということも必要になるのではないかと考えました。お客さま自身でカスタマイズ可能な、遊び心の余地があるというプラットフォームということでCherry MXのメカニカルスイッチを採用したという流れです」(笠原さん)
ぺかそさんはポインティングスティックにもこだわったそうです。ポインティングスティックは斜めに押すと動くものだと思われがちですが、操作性高めるためには調整を繰り返す必要があります。ちょっと押しただけでは動かず、ぐっと押すと意志のままに動き、さらにぐっと押せば加速する、といった具合です。
「貧弱な下半身でHHKBを名乗ってもらっては困ります。色々と細かくコメントさせていただいただき、いい塩梅に落ち着きました。完成品を使わせていただいた時は、マウスの使用率が8割ぐらい減りました。1日中、キーボードのホームポジションに両手を張り付かせてすべての操作ができます」(ぺかそさん)
HHKBエバンジェリストの想いのこもったコメントも参考にして、HHKB Studioの開発が進められました。HHKB Studio完成品のクオリティを見るに、関係者全員が渾身で作り上げたことが伝わってきて感動しました。
HHKB Studioのファームウェア公開を強く求められる
スペシャルトークセッション2本目は、松本さんがモデレーターとして、株式会社Shiftall 代表取締役CEO 岩佐琢磨さん、ブロガー/テクニカルライター 清水亮さん、東京大学情報学環教授/ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長 暦本純一さんが登壇しました。
ものすごいぶっちゃけトークが飛び交い、会場は笑いが絶えず大盛り上がり。途中でメディアアーティスト 落合陽一さんも参加して、ヒートアップしていきました。
まずは、HHKB Studioについての感想から。
「フォームファクタを変えたり、機能も増えているので結構不安はあったんだけど、結局、メカニカルのキースイッチが良かったです。今どちらを選ぶかと言ったら、こっち(HHKB Studio)を選ぶぐらいですよ。キーボードは99パーセントが叩いた感触です。HHKB Studioはその点、打鍵感が凄くて満足度が高いです。電源ボタンがスイッチになったのもいいですね」(暦本さん)
「HHKBの新シリーズが出るということで話があると言われた時、忙しいのにと思っていたんだけど、聞いていたら触ってみたいと思うようになりました。1週間くらい使っているのですが、今まではAppleの純正キーボードだったのを完全にHHKB Studioに変えました」(清水さん)
WindowsとMac、それぞれに合わせたキーマップに変更するために、従来はDIPスイッチを切り替えなければならないという点に不満をぶつけた清水さんですが、今回はソフトウェアで切り替えるようになった点を評価。「本当にこれほど素晴らしいキーボードは今まで触ったことがない」と語りました。
「押下圧45gでリニアなスイッチを開発した上に筐体が重いというのは、すごい組み合わせが良いです。僕はこの20年日本語配列のキーボードを英語配列にして使っています。HHKB Studioは日本語配列をツールで英語配列に変えられるのがよかったです。その時点で買う価値があると思いました」(岩佐さん)
ここで、落合さんが合流し、会場にどよめきが走りました。登壇するとは言われていなかったので、驚きです。座るのと同時に、持参したHHKB Studioを取り出し、「ジェスチャーパッドの感度をコントロールしたいです」といきなり要望を話し始めました。ミリ単位で調整したいとのことです。しかし、同時に「人生で使ったHHKBの中で1番いいです。最高です」と言い切ったのにも驚きました。
「ここのLED、なんで今までこれにしなかったんだろうね。USB Type-Cの差し込みも気持ちがいい」(落合さん)
xR(VR/AR/MR)の時代、HHKBはどうなるだろうか?と松本さんがお題を振ると、まさにVRデバイスを手掛けるShiftallの岩佐さんが、VRヘッドセット「MeganeX」を取り出しました。
「VRヘッドセットをかぶった状態で文字入力したいことが結構あります。そこで、事前にHHKB Studioの3Dデータを貸していただいて、現実空間とバーチャル空間にあるHHKB Studioの位置を合わせるというアプリを開発しています。本当は今日までにリリースしようとしたのですが、間に合いませんでした」(岩佐氏)
VRデバイスのプロセッサやカメラの性能がどんどん進化すると、キーボードが不要になるという方向に向かっている、という意見に対して清水さんは「そんなわけない」と返答。
「VR空間で仕事をするときにキーボードが使えないと話にならない。キーボードだったら身体感覚でどこにあるのかわかるけど、マウスは最後に置いたところがわからなくなる。だから、ポインティングスティックがくっつくってすごく重要なわけだ」(清水さん)
「VRで触覚の再現はできそうでできないです。目はもう網膜を超えているくらいですが、微妙な触覚は全然できません。本当に触覚がフロンティアで、ずっとノートPCというフォームファクターがあるけど、これからはHHKB StudioとVRデバイスというフォームファクターに変わるかもしれません」(暦本さん)
最後に、皆さんからHHKB Studioへの要望を一言ずついただきました。
「半分サイズのHHKBは未だに熱望してます。あと、ファームウェアを公開したら本当にプラットフォームになって、ラズベリーパイのような文化になると思うので、そこはぜひぜひ検討お願いします」(暦本さん)
「HHKB StudioをつないだOSによって自動的にプロファイルが切り替えるようにしてほしい。常駐ソフトでもいいから。買うか迷ってる人は買った方がいい。俺もあと2、3個欲しい」(清水さん)
「ファームウェアの秘伝のたれは外した状態のブランクファームを公開してほしいです。たくさんのHHKBのファンたちがHHKBのファームウェアをいじる未来を見てみたいです」(岩佐さん)
「ファームウェアがオープンソースになったら、まずベロシティカーブをミリ対応にしちゃいます。動画編集ソフトをもっといじりやすくしてほしいです。みんな買おう!」(落合さん)
HHKB Studio爆売れ、その場で使い始めるユーザーも出た
会場の入り口ではHHKB Studioや歴代のHHKBを展示しており、皆さん実際にタイピングして打鍵感を体感されていました。HHKB Studioの販売も行われており、ミートアップあるあるですが、飛ぶように売れます。早速開封し、使っているユーザーさんもいました。HHKBシリーズを安全に持ち運ぶために開発されたセミハードケース「Keyboard Pod2」も人気です。
恒例のプレゼント抽選会も行われ、和田先生のサイン入りHHKB Studioも出ました。お酒も進み、とても楽しい雰囲気であっという間に時間が経ちました。ユーザー同士の交流もあり、HHKB好きの集まりというレアなコミュニティですが熱量が高く、つくづくHHKBの魅力を再確認できるミートアップでした。
HHKBユーザーミートアップ Vol.7のアーカイブはこちらからご覧いただけます。
執筆者
柳谷 智宣
IT・ビジネス関連のライター。Windows 98が登場した頃からPCやネット、ガジェットの記事を書き始め、現在は主にビジネスシーンで活用されるSaaSの最先端を追いかけている。飲食店や酒販店も経営しており、経営者目線でITやDXを解説、紹介する。