「趣味のキーボードはエンジニアの盆栽」―Red Hat(レッドハット)キーボード部員が語るキーボード愛とは?

レッドハットのエンジニアのみなさん(ご愛用のHHKBを手に記念撮影)

「キーボード沼」という言葉が生まれるほど、キーボードは極めれば極めるほど奥深い道具です。しかし、レッドハット株式会社(本社:米Red Hat, Inc.)のエンジニアのみなさんは「道具としてだけでなく、趣味の側面も合わせ持つ」と考えているよう。キーボードを愛でたり自慢したりするための「キーボード部」が存在するほどです。

レッドハットのキーボード部山下さん、齊藤さん、田中さんを訪ね、キーボードへの熱い想い、また自分たちが携わっている仕事に対して持つ誇りなどをお聞きしました。

縁の下の力持ち!――私たちの生活を支えるレッドハット

インターネットを閲覧する、携帯で撮影した写真をクラウドにバックアップする、ATMでお金を下ろす――普段何気なく私たちの生活に溶け込んでいるこれらのサービスは、クラウドサーバーという場所を提供する企業、データを取り出せるようにシステムやプログラムを作る企業、そしてOSを作る企業など、さまざまな企業の連携により動作しています。

そんな、基礎の基礎、私たちが普段の生活では目にすることのない部分で、より“今風”の、モダナイゼーション(老朽化したシステムやIT資産を最適化)する仕組みづくりを支えているのが「レッドハット株式会社」です。

レッドハットの社名ロゴ
レッドハットの社名ロゴ

「レッドハットの製品は見えないところで使われているので、デモンストレーションをしても、とてつもなく地味なものになる」と言うのは齊藤さんです。「サーバーのオペレーションやリブートを自動でできますよ、と見せても、ウケることはないですよね」と笑います。

田中さんも「わたしの部署の仕事も地味ですね。(私たちにとっての)クライアントが提供するサービスを支える基盤を作っています、下支えしています、と話したところで、『だから?』という反応になりそうです」と語ります。

しかし「社会的なインフラの事故がニュースに上がったとき、大抵は私たちが関係している」と齊藤さんが語るほど、社会にとって重要で、なくてはならない生活のインフラを支えているのがレッドハットです。

「地味な分野だけど、動くアプリケーションを下支えする、OSから上のミドルウェアのレイヤー部分までカバーしている。説明してもわかりづらいところではありますが、そういう仕事に私たちレッドハットは携わっているのです」(齊藤さん)

キーボード愛が炸裂するキーボード部ってどんなところ?

地味だけど私たちの生活に欠かせないレッドハットには、多くのエンジニアが在籍しています。そのエンジニアにとって欠かせないものが、端末と対話するための道具「キーボード」です。

しかし、レッドハットには単なる道具としてだけでなく、趣味としてのキーボードを愛する「キーボード部」が存在します。そこではどのような活動がなされているのでしょうか。部長の山下さんを中心に、部員の齊藤さん、田中さんにも語っていただきました。

――キーボード部とはどのようなことをするところなのですか?

山下さん:レッドハットのキーボード部は、2024年4月頃に誕生したキーボード好きが集まる非公式のコミュニティです。現在21人のメンバーが、チャットやオフサイトミーティングで活発に情報交換をしています。

部長の山下さんとお子さんとHHKB
キーボード部 部長の山下さん

――山下さんが作られたのですか?

山下さん:そうですね。社内で「キーボードが熱いな」と感じたのでチャットルームを立ち上げ、キーボードが好きそうな人をそのチャットルームに入れたのがきっかけです。

斎藤さん:部長に突然招集されて入部しました(笑)。オフィスで変わったキーボードを使っていると、部長に目をつけられるので要注意です。

山下さん:齊藤さんがHHKBをたくさん持っているのを知っていましたしね。

斎藤さん:7台ありますしね。

山下さん:あとは、社内を歩き回って、「あ、この人は分割キーボードを使っているぞ」、「ノートPCのキーボードの上にキーボードを置いているなぁ」などめぼしい人をメモしておいて、そういう人たちを招集して、最初は7人ぐらいから始めました。

――キーボード部の活動方針を教えてもらっても?

山下さん:実は、キックオフのオフサイトミーティングのときにアジェンダのスライドを作りました。わたしが考えるキーボードとは「我々エンジニアに欠かせない道具でありつつも、その一方でエンジニアにとっての盆栽の側面を持つ大人の趣味でもある」というものです。
各自がキーボードに求めるものは打ち心地であったり、配列だったりするので、「多様性の尊重」、「相互理解」、「礼儀と常識」も重視しています。相手のこだわり、好みを否定せず尊重する心を持ちましょう、ということですね。

キーボードの多様性
求めるものが違うから、キーボードもさまざま。多様性を尊重しよう

――エンジニアにとっての盆栽! 名言ですね。

山下さん:キーキャップ、キースイッチ、キーマップ…こだわるポイントは人それぞれで、その多様性が面白いと考えています。

田中さん:私も最初は普通のキーボードを使っていましたが、先輩の影響で HHKB を使い始め、そこからキーボードの世界にハマっていきました。今では自作キーボード沼にはまり込んでいて、キーキャップを自作したり、海外から取り寄せたりするなどし、自分だけのキーボード作りを楽しんでいます。

――まさに盆栽ですね。ところで、オフサイトミーティングではどのようなことをされたのですか。

山下さん:それぞれのこだわりを披露し合ったり、購入したキーボードを見せびらかしたりですね。先日、初めて行った時には、まだキーボードを買ったことのない人もいたので、秋葉原の遊舎工房さんへ行き、後ほど喫茶店に集合して、買ったキーボードを自慢したり、持参した「僕の最強のキーボード」を見せびらかしたりする、というようなことをしました。

初回オフサイトミーティングでのワンシーン
初回オフサイトミーティングでのワンシーン。これだけでも熱が伝わってきます

ただ、キーボードやキーキャップを買うだけでは、買わないと話題がなくなってしまうので、「最近使っているキーマップ」の紹介や、キースイッチのルブリケーション(潤滑油やグリースなどを給油して滑らかにすること)したことのない人に「一緒にやりましょう」とか、キーボードを一緒に作る、などの活動をクオーターに1度くらいの割合でやっていければな、と考えています。

――キーボード部の活動を通じて成し遂げたいことはありますか。

山下さん:エンジニアがキーボードを使う、愛するのは当たり前なんですよ。仕事道具ですしね。なので、そうではない人にもキーボードの魅力が伝われば、それは1つのマイルストーンを達成できたことになるのではないかなと思って、キーボードの良さをいろんな人に普及すべく、日々活動しています。

「HHKBを使うようになってから沼にハマった」

――ここからは、みなさんにお使いになっているキーボードのこだわりやキーボードへの愛、またHHKBをお使いであれば思うところなどをうかがっていきたいと思います。
まずは、自己紹介をお願いします。

山下さん:はい、カスタマーサクセス シニアコンサルタントの山下祐生と申します。お伝えしているように、キーボード部の部長をやっています。仕事としては、ITオートメーションツール「Ansible」を担当しており、開発というよりお客様にその製品の価値を提供することに重点を置いた仕事をしています。

齊藤さん:グローバルサポートサービス プリンシパルソフトウェアメンテナンスエンジニアの齊藤秀喜です。Ansibleのテクニカルサポートをメインに、オープンソース版の開発も行っています。以前はSunワークステーションを扱う仕事をしていました。

田中さん:Technical Account Managerの田中絢子です。社会人6年目です。Red Hat OpenShift Containerというツールのパートナー様サポートを担当しています。

田中絢子さん
田中絢子さん

――どんなキーボードを使っているか、またHHKBをお持ちかどうか聞いてもいいですか。

田中さん:今、4台のHHKBシリーズを使っています。社会人2年目のときにHHKB Professional2を使い始めてHHKB Professional HYBRIDHHKB Studioと、順調に増えています。いずれも英語配列モデルを使っています。

田中さんが使っている4台のHHKB
田中さんがお使いになっている4台のHHKB

齊藤さん:現在はHHKB Studioをメインに使っていますが、HHKB歴は25年。最初の量産モデルPD-KB02が1台目、それから7台を使っています。その他に分割キーボード「Moonlander」と「Kinesis Advantage360」を使っています。Kinesis Advantage360は、拝むような形が特徴的ですね~。

尊師スタイル
尊師スタイルで使う

山下さん:たくさんあるのですが、普段使いは分割キーボードの「Corne V2」や自作キーボードの「Tofu 2.0」、それからHHKB Professional2、HHKB Professional HYBRID Type-S、HHKB Studioなどで、楽しく暮らしています。

山下さんご愛用のHHKBたち
手持ちのキーボードの中からHHKBだけを抜き出していただきました

――HHKBを使ってくださっているんですね。知ったきっかけや購入に至った経緯はどのようなものだったでしょうか。

齊藤さん:Sunのワークステーションを会社と家で使う仕事をしていた頃、自前のキーボードを持ち歩いていたんですが、専用のものは重くて大変でした。Happy Hacking Keyboardは「60%キーボード」と呼ばれていますが、その100%に当たるのが、Sunのキーボードだったんです。

ある日、秋葉原の裏町の地下でHappy Hacking Keyboardに出会って買って使ってみたら具合が良い。小さいし、電源ボタンが付いているし、ミニDIN8ピンついているし、PS2やMac ADBキーボードにも対応する。そこからハマるようになりました。

齊藤さん
齊藤さん

山下さん:齊藤さんはバカみたいに持ってますよね。

齊藤さん:バカって言うな(笑)。

全員:(笑)

山下さん:わたしのHappy Hacking Keyboardとの出会いは9年前で、HHKB Professional2が最初でした。出会ったきっかけは、大学の研究室の先輩が使っていて、「これ、コーディングするのにすごくいいよ」と言われて。興味はありましたがちょっと高くて買えなかったんですよね。

ある日、仕事があまりに忙しく、「コードを効率的に書きたいなぁ」と思い、迷いを吹っ切って買ったのが始まりです。

カーソルキーがなかったので、慣れるまで大変でしたが、慣れたら非常に快適で、コーディング作業がはかどりました。

田中さん:わたしは社会人になってもキーボードに特に興味がなかったんです。ただ、先輩がREALFORCEを使っていて、「かっこいいなぁ、美しいなぁ」と感じていました。

それからコロナ禍になり、在宅勤務に切り替わる際、ロッカーを引き払うタイミングで先輩のロッカーから使っていないHHKB Professional2が発掘されまして。「あげる」と言われてもらったのが最初の出会いです。

その後、HHKB Professional2の端子がMicro USB Type-Bであることに気づき「ちょっと端子が不都合だなぁ」と思ってType-Cを搭載している機種が欲しくなり、そのうちBluetooth接続できるものが欲しくなり、「ポインティングスティック搭載のものが出たのか!」とHHKB Studioを購入した、という流れですね。

キーキャップをカスタマイズし始めたのは、純正のものでは刻印が見えづらいなぁと感じたからです。それでちょっと変えたりしているうちに、魔改造キーボードになってしまい……HHKB Studioに至っては、真ん中(ポインティングスティックと周囲の「G」「H」「B」)のキー以外全て換装済みだという(笑)。

田中さんの魔改造HHKB Studio
田中さんの魔改造HHKB Studio

山下さん:おしゃれだよね~。

田中さん:レジンで作ったりもしたんですが、耐久性が難しかったり、気泡が入ってしまって美しくなかったりして、作っては取り外す、というのを繰り返しています。あとは遊舎工房や海外通販サイトで購入する感じですね。

――HHKBを実際に使ってみて、不満点などはありますか。もちろん良かった点もあればうかがいたいです。

山下さん:素敵だと思うところからお話していいですか?(笑)

ファンクションキーを使ったレイヤリングが便利だなぁと感じています。おかげでコンパクトサイズになっていますし持ち歩きしやすい。それに乾電池駆動なのがいいですよね。どこででも手に入りますもの。そしてBluetoothペアリング4台に対応しているというのも良い。「俺の考えた欲しいキーボードの機能がぜんぶそろってるやんけー!」と。

不満点をなかなか思いつかなかったんですが、自分でキーボードを作るようになって気づいたことがあります。それはスペースキーが長いこと。「こんなに長くなくてもいいんじゃない?」と思ってます。

などと言いつつ、自作キーボードも全部HHKB配列なんですけど(笑)。

齊藤さん:チルダの位置が変じゃない?

山下さん:ファンクションキーとの同時押しで対応する、ということもできるじゃないですか。それが良いですよね。でも、スペースキーのこの長さはいらない。

田中さん:部長に全部言われてしまった……。

齊藤さん:部長が言っちゃったよ……全部……。レイヤリングいいですよね、乾電池もいい。

田中さん:乾電池いいですよね。最高です。

齊藤さん:充電を常に気にするという必要がないし、データセンターに持って行ったところで「充電がない!」ということになったらしんどいですよね。

山下さん:わかります。

齊藤さん:HHKB全体に流れるフィロソフィー(哲学)が素敵だな、と思っていて。最初のメンブレン方式から、静電容量無接点方式のものも、HHKB Studioのメカニカルキースイッチも、どれも打ち心地の統一感がある。

自作キーボードにも、HHKB Studioと同じキースイッチをつけています。

HHKB Studioといえば、ポインティングスティックはいいですよね。でもサイドとフロントのスライドバー(ジェスチャーパッド)はオフにしてしまっています。

田中さん:え、そうなんですか。わたしはオンにしたままです。

山下さん:へぇ、そうなんだ。

田中さん:業務外のところで、イラストレーターなどAdobe製品を使っていて、ショートカットキーを割り当てたり、画面を動かしたりするのに便利なんですよ。

山下さん:あぁ、それはいいなぁ。そうかそうか。

――Red Hat Enterprise Linuxがあるとお聞きしています。皆さんの作業環境もLinuxなんですか?

山下さん:Macですね……。

齊藤さん:Macです。

田中さん:Macで仕事しています……。

田中さんの作業環境
みなさん、作業環境はMacとのこと。こちらは田中さんの作業環境

齊藤さん:あ、でもLinux使っているエンジニアの方が多いですよ! テクニカルサポートでは、9割がLinuxです。実は、1割しかMacユーザーがいなくて、その異端な人たちがここに集まってきちゃった、という感じです。

全員:(笑)

――そろそろお時間が迫ってまいりました。最後にこれだけは言っておきたいということがあれば、ぜひこの場でお聞きしたいです。

田中さん:わたしは本当にHHKBに触れるまでキーボードに全く興味なかったんですが、そういう人でもキーボード沼に即座に叩き落とす力を持っているのがHappy Hacking Keyboardだと思っています。分割キーボードを作ったんですが、それもHHKB配列を完璧に模しています。これがなかなか使い心地良く、山下さんがおっしゃっていた「長いスペースキー問題」も解決できています。

“みんな”、“騙されたと思って”、“一度は”使ってみてほしい。「これ以外ありえない」と思うようになるかもしれませんよ。

齊藤さん:なんかみんな分割キーボードを持っていて、HHKB配列にしていて、HHKBから公式の分割キーボードを出してほしいと言うんですが、わたしは変えないでほしい!だって、同じ配列だからこそ、何台買ってもバレないでいられるんですから。

全員:(笑)

齊藤さん:このデザインが好きでずっと使っている。なかなか25年使い続ける道具ってありませんよ。HHKBに受け継がれているフィロソフィーをいいなとおもっているので、このままでいつづけてほしいですね。あとは、HHKB Studioの雪モデルを買おうかどうか悩んでいます(笑)。

山下さん:キーボードについて話すときに、いつも言っていることなんですが、僕にとってキーボードはジャーニーだと考えています。原点はHHKB。そこから自作キーボードなど自由度の高いキーボードや分割40%キーボードなども使う。今、ハマっているのがそれですね。

これがいいな、こういうことをしたいな、とあちこち巡って、色々使う。もちろん使わなくなったものもあります。でもそれを含めてジャーニーなんです。そしてまた、HHKBの「静電容量無接点方式はいいなぁ」というところに帰ってくるかもしれない。HHKBって実家みたいなものなんですよ。安心感がある。「ああ、帰ってきたなぁ」って。僕にとっての原点はHHKBで、これからもそこを起点に旅を続けていきたいなと思うんです。

大量のキースイッチ
自作キーボードなど、キーボードの旅に必要な大量のキースイッチが、作業デスクの脇に整理して置かれている

――名言ですね。みなさん、今日はありがとうございました。

取材を終えて

私たちが生活するうえでなくてはならないインフラを支える開発をしてくださるエンジニアが集まっているレッドハット株式会社。仕事に対してだけでなく、道具であり趣味でもあるキーボードへの熱い想いをふんだんにうかがうことができました。

「キーボードはエンジニアの盆栽である」、「キーボードはジャーニー」、「HHKBは実家」などなど、さまざまな名言もいただきました。

「キーボードなんて、どれも同じでしょ?」という考えもありますが、それでもぜひHHKBに触れていただき、キーボードを変えるだけで世界が広がるという感覚を多くの人に味わっていただきたいなぁと思う取材でした。

みなさん、お忙しい中、取材にご協力いただき、ありがとうございました。

\レッドハット株式会社はこちらから/

レッドハット株式会社 公式サイト:https://www.redhat.com/ja/global/japan

執筆者

渡辺まりか

通電するガジェットをこよなく愛するフリーランスライター。馬が好きで乗馬ライセンスを、海が好きで二級小型船舶操縦士免許を、昔からのあこがれで普通二輪免許を取得するなど多趣味。物欲を抑えつつ、編み物をライフワークとするなどアナログな一面もある。

※本記事に掲載の情報(仕様、価格など)は、2025年3月時点のものです。

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