タイピングの熱狂はここにある!
究極のプログラマーズキーボード「HHKB」を形作る哲学とは?

記事Top画像(HHKB KB02/01)

1996年にプログラマーズキーボードとして誕生したHHKB。一般的なキーボードの配列とは少し異なる独特な配列をしています。

HHKBが誕生した28年前と比べるとIT環境が大きく変化している現在、左右分割型キーボードやテンキー付きのモデルが欲しいなど、キー配列に関するご要望などを耳にする機会も増えてきました。

そんな中、HHKBが初期モデルからずっと同じキー配列にこだわっているのは何故なのか?

HHKB誕生の歴史を紐解きつつ、HHKBの哲学(基本事項)をおさらいすると、その答えが自(おの)ずと見えてきます。

今回は、新年度が始まるこの時期であり、かつ、HHKB Lifeとしても記念すべき100本目の記事でもあるので、改めてHHKBを構成する基本哲学(フィロソフィー)について振り返ってみることにしました。
HHKBの生き字引(笑)である、PFU松本秀樹さんにもお話を聞いてみたので、そのお話もご紹介しながら、初心にかえってHHKBの基本事項や哲学をおさらいしてみようと思います。

キーボードは究極の入力デバイス!HHKBが生まれた理由とは?

いろいろな入力デバイスはありますが、プログラマー(エンジニア)やライターにとって、指先を通じて脳を可視化できる「キーボード」はまさに究極のデバイスといえます。

HHKB誕生のきっかけは、公式サイトの「HHKB HISTORY ~HHKBの軌跡~」にあるように、東大名誉教授の和田英一氏が「マイ・キーボードを作りたい」と考えたことから始まりました。

キーボードによってキー配列がころころ変わり、ほぼ使わないキーの存在や位置が入力の邪魔になっていること、そのせいでキーボードサイズが肥大化し、持ち運びしにくく、机がせまくなる課題を解決しようというわけです。

和田栄一氏
東京大学名誉教授 和田 英一氏
日本のコンピューターのパイオニアといえる計算機科学者で、
HHKBの永久名誉エバンジェリストでもあります

HHKB誕生秘話については、上記の公式HISTORYページや論文「けん盤配列にも大いなる関心を」、和田先生の公式サイト「個人用小型キーボードへの長い道」、HHKBの初期開発に携わった元PFU八幡勇一氏のブログなどに詳しく掲載されていますので、そちらをご確認いただくとして。

プロダクト・エバンジェリストである松本氏に、改めてHHKBの開発目的や背景について振り返ってもらいました。

「HHKBは、もう四半世紀以上前のUNIXを中心としたプログラマー(エディターを使ってコードを入力する人々)にとって最適なキーボードを作ろうという思想で作られたキーボードでありキー配列です。プログラマーのためのあるべき配列というのかな。和田先生と一緒にそれを定義して作ったんですけど、その配列が時代を超えて若い世代にも受け継がれ、“キーアサインの完成形”として結果的に今まで生き残ってきたという感じですかね。」とのこと。

HHKB Professional HYBRID Type-S 英語配列/墨
HHKBの原点を守る究極系ともいえる
HHKB Professional HYBRID Type-S 英語配列/墨

HHKB誕生の頃と現在では、大きくIT環境が変わってきているにもかかわらず、四半世紀も前に定義した「プログラマーにとって最適なキーボード(配列)」が今になってもまだ残っている。なんだか不思議な感じがしますよね。

では、「プログラマーにとって最適な配列」とは一体どういうことなのでしょうか?

なぜHHKBはこのキー配列なのか?

HHKB配列の特徴とは?

HHKBの配列の特徴を簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 基本的にはASCII配列
  • ControlはAの左
  • Escは1の左
  • Returnキーの上にDelキーを配置
  • 修飾キー(◇/⌘、Alt、Shift、Fn)あり
  • テンキー、ファンクションキーなし
HHKB英語配列の特徴
独自配列であるHHKBの英語配列(HHKB Professional HYBRID Type-S)

HHKBは、Sun-3準拠のASCII配列をベースに始まりました。
記号の入力なども考慮して世界標準であるASCII配列を基本とし、日本語入力はローマ字入力のみと割り切ることで仮名刻印を無くしています。これにより、ほぼ左右対称の美しい配列になっています。

ファンクションキー、テンキー、カーソルキー、CapsLockキーなどのあまり使わないキーを省き、プログラミングに必要なキーだけを配置。
ControlキーがAの横に配置されているのは、ホームポジションを崩さずにショートカットキーやコマンド操作を行うためであり、Escキーが1の横に配置されているのもキーボードを眺め直さなくてもタッチタイピングしやすいようにするためです。

HHKBには日本語配列もありますが、こちらも通常「半角/全角」キーがある位置にEscキーがある配列になっていて、ホームポジションをなるべく崩さずにタイピングできるよう設計されています。

プログラマーのためのキーボードとして誕生したHHKBの独自配列は、28年たった今でも変わらず引き継がれるHHKBの原点ともいうべき一番大切な哲学です。

HHKBの基本要件(10箇条)

キー配列と合わせて、28年前に和田先生と一緒にPFUが定義した「HHKBの基本要件」というものがあります。それがこちら。

HHKBの基本要件10箇条
HHKBの基本要件(10箇条)
私たちが作るキーボードに求めるものが集約された定義です

左右分割型やテンキーなどがついたHHKBが欲しいという要望を耳にする機会もありますが、HHKBというキーボードについて、PFUはこう考えています(松本氏談)。

「HHKBはいわば“フォーミュラカー”のようなもの。プログラマーが集中してコードを書くためだけのスパルタンな設計思想で作られたちょっと尖った道具です。
脇目も振らずに高速に打つのが目的で、ビビッドでタイトなハンドリング感覚ともいうのかな。プロが集中して高速タイピングをするために作られた配列。余計なものがない究極のミニマルさを目指したキーボードなんです。」

フォーミュラカーのイメージ図
プロが集中して高速タイピングをするための配列を追求
その結果がHHKBの独自配列になりました

UNIX上のviやEmacsなどのテキストエディタで、プログラマーがコードを一心不乱に書くときに最適なキーボードを目指したため、肩を広げて疲れにくい姿勢で打てるように考えられている左右分割型のキー配列や、他作業で使うカーソルキーやテンキーなどの特殊キーが備えられた配列は、そもそもHHKBの設計思想には含まれていないのです。
ちなみに、和田先生は「テキストエディタを効率よく打てることが目的」とおっしゃっていたとか。

また、この基本条件を見ると、キーボードのサイズについてもかなりのこだわりがあるのが分かります。キーボードサイズと配列は密接に関係しているので、HHKBが独自配列となった理由の1つは、このA4ハーフサイズへのこだわりともいえるでしょう。

道具には、使い心地のよい、ほど良い大きさがある

最初に、HHKBのサイズ(寸法)を決めるとき、キーピッチは標準のままでいくこと、かつ、全体のサイズはA4ハーフサイズ(297mm×105mm)にすることを決めました。

A4ハーフサイズへのこだわりは、マイ・キーボードを何処へでも持ち運んで使えるように、という想いが込められています。さらに、持ち歩きに堪えうる十分な強度も求められる大切な要素。

必要なキーしかない環境は極めて爽快!
と和田先生もおっしゃっていますが、インターフェースが自由かつ万能であるためには、必要最小限(ミニマル)であることは重要な要素です。

かっこよく言えば、引き算の美学?(笑)

逆にいえば、最小限(ミニマル)だからこそ、28年間も変わらず受け継がれてきたのかもしれませんね。

鞄とHHKB。持ち運びしやすいサイズと強度です
HHKBは持ち運びやすいA4ハーフサイズ
外出先でも“マイ・キーボード”としてお使いいただけます

「HHKBの基本精神は、シンプルに徹し、ゴタゴタした余計なものは排除するということだ」と和田先生もよくおっしゃっていました。

HHKBの無刻印キートップ(アップ)
プロフェッショナルの証である無刻印モデルは、
印字すらも省いた究極のミニマルモデルです

2019年に発売されたHHKB Professional HYBRID Type-Sは、そんな基本事項を踏まえたHHKBでやるべきファンクションの集大成ともいえる商品。
同年、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞も受賞しています。

2019年度のグッドデザイン・ロングライフデザイン賞ロゴ
HHKB初代モデル(左)と現行モデルのHHKB Professional Type-S(写真 右)
1996年発売のHHKB初代モデル(写真 左)と
2011年発売のHHKB Professional Type-S(写真 右)
現行モデルであるHHKB Professional HYBRID Type-Sにもその基本コンセプトは引き継がれています。

「HHKBは、PFUが富士通からコンピューター製品の開発・製造を受注することが本流の企業だった中で起こった“奇跡”のようなもの。
企業の本流から逸脱したこのプロダクトを最初どうしたら終わりにできるかを考えていたのだけど、熱心な開発者と熱狂的なファンに支えられここまで来た。いつの間にかミイラ取りがミイラになってしまった。(笑)。」

と松本氏はいいます。
近頃は、AI革命により音声入力やその他のインターフェースが急速に進化しています。HHKBやHHKB Studioの今後がどうなっていくのかはわかりませんが、これからもタイピングはじめ、ファンの皆様の期待に応えられる製品開発を続けていきたいと考えています。

「HHKB」という名前に込められた想い!

最後に、「Happy Hacking Keyboard」という名称についても少し触れておきます。

HHKBという商品名は、和田先生が「このキーボードを使い、プログラムをハックするのはどんなに気持ちがよいだろうか?」と考えたところから始まっています。

Happy Hacking
和田先生がお気に入りのロゴ
HHKB公式の和田先生のページにも掲げられています
25周年の時に作ったHHKB25周年記念Tシャツにもなりました
Tシャツのバックプリントは、和田先生のデザインです

「Happy Hacking」という言葉自体は、本当に楽しくハッキング(タイピング、プログラミング)をするということを表す言葉で、革新的な大御所プログラマーであるリチャード・ストールマン氏が常に使っていた言葉(哲学)だそうです。
リチャード・ストールマン氏は、70年代後半から80年代にかけてのハッカー文化の旗手であり、GNUプロジェクトの創始者。Emacsの開発者でもあります。

日本では、ハッカーという言葉はあまりよい意味で使われていなかったこともあり、最初にHappy Hackingの登録商標の申請をしたときは、特許庁から公序良俗に反するのでNGと言われてしまいました。
そのため、スティーブン・レビー氏の著書「ハッカーズ」を引用し、本来ハッキングという言葉には悪い意味はないと反論することで、無事登録できたという経緯があります。

タイピングに楽しさを求めたポジティブなメッセージが込められているこの言葉を商品名(ブランド名)にしたことは、今になっても英断だったなと感じているのですが、皆さん、いかがでしょうか?(笑)

発売から28年。
HHKBは、プロフェッショナルが使う究極の道具を目指し、タイピングする方たちの入力の質を高め、喜びをもたらすキーボードを目指してきました。

タイピングするときの熱狂と快感!Happy Hacking!

HHKBを通じて、皆さんにもぜひその感動を感じていただけたら幸いです。

タッチタイピングに慣れたプロフェッショナルな方たちにとって、シンプルで使いやすいキーボードとはどんなものなのか?
今回は、HHKBの独自配列について改めておさらいしてみましたが、いかがだったでしょうか?

ちょっとクセのあるHHKB配列ですが、ぜひ一度試してみてください!
もしかしたら、あなたにとって意外にフィットするキーボードになるかもしれません。

\HHKBは、購入前にレンタルしてお試しいただけます!/

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必ず、販売元が「PFUダイレクト」であることをご確認ください。

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