キーキャップのプロファイルと種類・印字方法について解説
カスタムキーボードの楽しみ方の一つに「キーキャップの交換」があります。
キーキャップの世界は非常に奥が深く、形状や材質をはじめ、印字方法に至るまでとても魅力的な要素が詰まっているのです。
この記事では、キーキャップの形状や材質、印字方法などを解説していきます。
ぜひ、キーキャップ選びの参考にしてください!
キーキャップの種類と分類について
キーキャップの種類に関しては、下記の3つの要素で構成されています。
■キーキャップの種類について
- 使われている材質の違い
- 印字方法の違い
- 形状の違い
材質の違い
キーキャップは、製造する際に利用する「素材」で分類することができます。
一般的にはプラスチック樹脂で作られるものが多いですが、中には「セラミックス」や「金属」で作られているものも登場してきました。
使用される材質の違いで、「触感」や、タイピングした際の「打鍵感・打鍵音」が大きく異なります。
印字方法の違い
キーキャップの上部には、アルファベットや数字といった「印字」が施されています。
キーボードを長期間使用していると、キートップが摩耗することで、印字が消えてしまうケースもあるでしょう。
しかし、中には、印字部分を別パーツで構成している「2色成型(ダブルショット)」という印字方法を採用しているものも存在しており、そうしたキーキャップは物理的に印字が消えることはありません。
このように、キートップの印字ひとつとっても、様々な表現方法が存在しています。
形状の違い
キーキャップは、その形状を表す「プロファイル」という言葉で、「全体の形」を表していることが多いです。
プロファイルは、側面から見た時の傾き、キーの形状、キーの高さの3要素で構成されており、この3つの組み合わせによって様々な形状(プロファイル)のキーキャップが存在します。
事項からは、これまでに挙げた「材質」「印字方法」「形状」について、さらに詳しく解説していきます。
キーキャップに使用される材質
キーキャップの素材として最も普及しているのが、プラスチック樹脂です。
その代表として、ABS樹脂とPBT樹脂があります。
二つの素材の特徴や違いは下記の表をご覧ください。
ABSキーキャップ | PBTキーキャップ | |
材質 | アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの合成樹脂 | ポリブチレンテレフタレートの合成樹脂 |
耐久性 | 比較的低い(摩耗しやすい) | 高い(摩耗に強い) |
耐熱性 | 比較的低い(熱による変形や退色の可能性がある) | 高い(高温でも性質が安定) |
耐油性 | 低い | 高い |
光沢感 | 光沢・非光沢(マット)どちらも可能 | 非光沢のみ(マット) |
音質※ | タイピング音が高い。 Clacky |
タイピング音が低い Thocky |
LED透過性 | 高い | 低い |
コスト | 低い(一般的に安価で生産しやすい) | 高い(製造コストが高く、生産難易度が高い) |
対応印字方法 | レーザー印刷 2色成型(ダブルショット) など |
レーザー印刷 昇華印刷(Dye-Sub) シルク印刷 2色成型(ダブルショット) など |
- Clacky|高音が強調された「カチャカチャ」と形容される打鍵音
- Thocky|低音が強調された「コトコト」と形容される打鍵音
- 打鍵音に関しては、キーボードの内部構造や使用するキースイッチなど、様々な要素が組み合わさったものとなっているため、キーキャップのみで打鍵音が決定するわけではありません。
ABS
コスト面で非常に優れており、一般的に普及しているのがABS樹脂を使ったキーキャップです。
様々な色の表現が可能で、成型方法によってはLEDライトも透過できるため、広く採用されています。
一方で、耐摩耗性が低く経年使用によってキーキャップ上面にテカリが発生する、印字方法によっては印字が消えるなど、長期間の利用には向いていないというデメリットがあることは覚えておきましょう。
打鍵音については比較的高音が強調されたClackyな感じになることが多いです。
PBT
近年人気となってきているのが、PBT樹脂を採用したキーキャップです。
ABSと比較するとやや値段は高いものの、熱による変形に強いため、印字が消えにくい「昇華印刷(Dye-Sub)で印字することができる点や、打鍵音が「Thocky」となりやすいことからも、人気を博しています。
近年では、製造技術や印刷技術が向上し、印字部分を異なる色で作成する「ダブルショット(2色成型)や、キー上面だけでなく側面への印刷にも対応した「五面昇華印刷」などが登場したことにより、さまざまな表現が可能になりました。
その他の素材
上記以外のプラスチック樹脂以外の素材としては、下記のようなものが採用されるケースも存在します。
■ABS /PBT以外のキーキャップ素材
- POM(ポリオキシメチレン)
- PC(ポリカーボネート)
- シリコン
- 木材
- セラミックス
- 金属
特に、PC製のキーキャップは、クリアなルックスからLEDライティングが美しいゲーミングキーボードへの採用例も多く、セラミックスや金属に関して、独特の硬質な打鍵感や手触りが人気です。
キーキャップの印字方法
キーキャップの印字方法も、様々なものが存在します。
印字方法 | 特徴 | 利点 | 欠点 |
昇華印刷 | 高熱を利用して染料をキーキャップのプラスチックに浸透させる。 | 高い耐久性があり、細かいデザインや複数色の使用が可能。 | 製造コストが比較的高い。ABS素材には使えない。 |
2色成型 | 二種類のプラスチックを使用してキーキャップを成型し、文字部分が異なる色のプラスチックで作られる。 | 文字が消えることがなく、耐久性が非常に高い。 | 製造コストが高い。色の組み合わせが制限されることがある。 |
レーザー印刷 | レーザーを用いてインクをキーキャップ表面に焼き付ける。 | 摩耗に強く、精密なデザインが可能。 | 長期間の利用で印字が薄くなることがある |
シルク印刷 | シルクスクリーンを使ってインクをキーキャップに印刷する伝統的な方法。 | デザインの自由度が高く多色印刷が可能。 | 表面摩耗によりデザインが消えやすい |
UV印刷 | UV光で硬化するインクを使用して印刷。表面に薄いコーティング層が形成される。 | 色鮮やかで高解像度の印刷が可能。外層が保護層として機能する。 | UVコーティングが剥がれると印刷がダメージを受ける可能性がある。 |
パッド印刷 | インクをキーキャップの表面にスタンプするようにして印刷する。 | 製造コストが低く、複雑なデザインや多色印刷が可能。 | インクが摩耗しやすく、長期間の使用で文字が消えることがある。 |
レーザー彫刻 | レーザーでキーキャップの表面に文字を彫刻する。 | 掘り込むため、文字が消えにくい。 | 彫刻のため単色のみしか対応できない。 |
代表的な印字方法を見ていきましょう。
昇華印刷(Dye-Sub)
昇華印刷(Dye-Sub)は、高熱を利用して染料をキーキャップに浸透させる印字方法です。
インクを浸透させるため、消えにくいのが特徴で、文字だけでなく広範囲に渡って色を載せることもできます。
印刷時に高温となるため、熱耐性に弱いABS樹脂に対しては、この印刷方法を施すことはできません。
ダブルショット(2色成形)
ダブルショット(2色成型)は、文字の部分のみ、異なる色のプラスチック樹脂を組み合わせて文字を表現する方法です。
厳密に言うと、印刷ではなく、「色の異なる樹脂による組み合わせ成型」となっているため、摩耗によって印字が消えることがありません。
文字もくっきりはっきりと見えるため、印字方法としては非常に優れた方法と言えます。
キーキャップの形状と代表的なキープロファイル
最後に、プロファイルの違いについて見ていきましょう。
プロファイルは、主に下記の3つの要素で構成されています。
■キープロファイルの構成要素
- 側面から見た時の傾き
- キートップの形状
- キーの高さ
側面から見た時の傾き
側面から見た時の形状は、大きく分けて二つの種類があります。
■ステップ・スカルプチャー
代表的なのは、ステップ・スカルプチャーと呼ばれる形状です。
側面から見ると緩やかなアーチ状となっており、ホームポジションを起点として上下に移動した際に、指先が接触しやすいように配慮されています。
一般的なメカニカルキーボードでは、この形が多く採用されており、一般的な形状と言えるでしょう。
■フラット
次に多いのが、フラットと呼ばれる形状です。
側面から見ると、上部から下部まで傾きがなく、直線的となっていることがわかります。
特に、薄型キーボードではフラットプロファイルが採用されることが多い印象です。
一般的には、キーの上部が「R5」下部が「R1」と呼ばれることが多いです。
ただし、キーキャップ製造ブランドによって、上下が逆になっているケースもあるため、注意しましょう。
キートップの形状
続いて、キートップの形状についてです。
キートップの形状は、下記の3種類があります。
■キートップの形状
- シリンドリカル(円筒状)
- スフェリカル(球面状)
- フラット(平面状)
■シリンドリカル(円筒状)
シリンドリカルは、キーキャップ上面に円柱形状のものを押し付けたような、弓形の窪み方をしているのが特徴です。
キー上面に指先を置くと、自然とキー中央部に指が移動するため、タイピングがしやすいように工夫されています。
■スフェリカル(球面状)
スフェリカルは、キーキャップ上面に球体を押し付けたような、すり鉢状の窪み方をしているのが特徴です。
シリンドリカルよりもさらに指先がキー上面の中央部に滑り込むため、「指先が吸い付くような」と表現がされることが多くあります。
■フラット(平面状)
フラットは、その名の通り、キーキャップ上面が平らになっています。
ノートパソコンなどで採用されていることが多く、指を平面状で滑らせて移動させても引っかからないため、いわゆる「撫で打ち」をされる方に好まれている印象です。
キーの高さ
最後に紹介するのは、キーの高さの違いです。
後述しますが、一般的に普及している「Cherry Profileに倣った形状」の高さのキーキャップを標準とした際に、それよりも背が高いキーキャップを「ハイプロファイル」、背が低いキーキャップを「ロープロファイル」と呼ぶことが多いです。
この呼び方の定義については特に存在しておらず、「標準的なものよりも高いか低いか」で呼称されます。
代表的なキープロファイル
ここからは、これまでに紹介してきた「傾き・形状・高さ」を踏まえて、代表的なキープロファイルを紹介していきます。
Cherryを倣ったプロファイル
傾き | ステップ・スカルプチャー |
形状 | シリンドリカル |
高さ | スタンダード |
一般的なメカニカルキーボードで最も多く採用されているのが、最古のコンピューターキーボード製造ブランドである「Cherry社」のキーボードが採用している「Cherry Profile」に倣った形状のものです。
厳密にいえば、Cherry Profileを模したものであるため、製造ブランドによって若干の違いがありますが、ステップ・スカルプチャー形状、キーキャップ上面がアーチ上となっているという特徴は共通しています。
OEMプロファイル
傾き | ステップ・スカルプチャー |
形状 | シリンドリカル |
高さ | ハイプロファイル |
Cherryプロファイルを若干高くした形状のものが「OEMプロファイル」です。
メカニカルキーボードでは、Cherryプロファイルと並んで採用される例が多くあります。
厳密な規格等はないため、ブランドやキーキャップ製造工場によって若干高さなどが異なります。
その他のプロファイル
これ以外にも非常に多くのプロファイルが存在しますが、抜粋して紹介していきます。
■HHKBオリジナルプロファイル
傾き | ステップ・スカルプチャー |
形状 | シリンドリカル |
高さ | スタンダード |
HHKBは独自のキープロファイルで、指にフィットするようにわずかなカーブがあり(シリンドリカル)、段ごとに違う高さがつけられた(スカルプチャード)構造になっています。
■KATプロファイル
傾き | ステップ・スカルプチャー |
形状 | スフェリカル |
高さ | ハイプロファイル |
KATプロファイルは、Keyreative社がライセンスを有するプロファイルです。
キーキャップ上面が窪んだスフェリカル形状を採用しているため、指先が吸い付くような打鍵感が特徴となっています。
Cherryプロファイルと比較すると、若干高さが高くなっており、R1の形状を工夫することでタイピング体験が最適となるようにさまざまな工夫が施されています。
■ロープロファイル
傾き | フラット |
形状 | フラット |
高さ | ロープロファイル |
ロープロファイルは、一般的なノートパソコンなどで採用されることが多いプロファイルです。
キーを押下する距離が短いキースイッチに採用されるケースが多く、キー形状がフラットとなっていることからキーの上を滑らせるようにしてタイピングができるため、「撫で打ち」をする方に好んで使われます。
HHKBについて
HHKBは下記のような仕様になっています。
キープロファイル | HHKBオリジナル |
傾き | ステップ・スカルプチャー |
形状 | シリンドリカル |
高さ | スタンダード |
素材 | PBT |
印字方法 | 昇華印刷 |
■対象となるキーボード
- HHKB Studio
- HHKB Professional HYBRID Type-S
- HHKB Professional HYBRID
- HHKB Professional Classic
HHKBは独自のキープロファイルで、各キートップには指にフィットするようにわずかなカーブが付けられています。
また、ホームポジションからどの行でも押下しやすいように、キートップ側面にそれぞれ異なった傾斜がついているステップ・スカルプチャー形状になっているのも特徴の一つと言えるでしょう。
また、キートップの素材には、耐摩耗性に優れたPBT樹脂を採用しているため、経年劣化による黄ばみもほとんど発生しません。
キートップの印字は昇華印刷(Dye-Sub)を用いているため、摩耗によって刻印が消えることもないため、長い間使い続けることができます。
HHKB Professional Type-Sであれば、本体カラーを3色の中から選択可能となっており、静電容量無接点方式の独特な打鍵感を楽しむことが出来るでしょう。
また、ポインティングスティックとジェスチャーパッドを搭載したHHKB Studioであれば、メカニカルキースイッチを採用しているため、キースイッチを交換して楽しむこともできます。
まとめ
以上、キーキャップのプロファイルと種類・印字方法について解説してきました。
これまでの内容を振り返ってみましょう。
■キーキャップの「プロファイル」構成要素
- 側面から見た時の傾斜|ステップ・スカルプチャー/フラット
- キーキャップの形状|シリンドリカル/スフェリカル/フラット
- キーキャップの高さ|スタンダード/ロープロファイル/ハイプロファイル
■キーキャップの素材
- ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)
- PBT(ポリブチレンテレフタレート)
- POM(ポリオキシメチレン)
- PC(ポリカーボネート)
- シリコン
- 木材
- セラミックス
- 金属
■キーキャップの印字方法
- 昇華印刷(Dye-Sub)
- 2色成型(ダブルショット)
- レーザー印刷
- シルク印刷
- UV印刷
- パッド印刷
- レーザー彫刻
このようにキーキャップ一つとっても、非常に奥が深いことがお分かりいただけたでしょうか。
近年では、打鍵感、耐久性、コストパフォーマンスを考慮した「PBT素材で昇華印刷」のキーキャップが主流となりつつあります。
この記事を参考に、あなたにとってぴったりのキーキャップが見つかるといいですね。
執筆者
河村亮介
GreenEchoes Studio代表。
キーボード専門メディア「GreenKeys」を運営。
サイト運営、サイト設計、Webライティング等の事業を展開するほか、通信系ジャンルの執筆監修なども行っている。