ぺかそ&びあっこのHHKB Studio活用術
カスタマイズ性を活かす!
昨年10月に発表されたHHKB Studioは、Professionalシリーズと並行して存在する「よりモダンな」コンピューティング環境に合わせて進化したHHKBのフラッグシップモデルです。
HHKBをHHKBたらしめる配列はそのままに、ポインティングスティックやジェスチャーパッドの搭載などキーボード上の最小動作ですべてを操作できるように作られているのは読者も御存知の通り。
一方でHHKB Studioは「ユーザーがHHKBに合わせる」のではなく、「HHKBがユーザーに合わせる」ためのカスタマイズ性の高さも備えています。Professional HYBRIDシリーズから更に強化されたキーマップ変更機能やキートップのみならずメカニカルスイッチの交換も可能で、昨今のカスタムキーボードや自作キーボードのトレンドをキャッチアップしています。
今回は、そんなHHKB Studioのカスタマイズ性を生かした例としてHHKBエバンジェリストのびあっことぺかそが、それぞれのカスタマイズを紹介します。
キーマップ変更ツールの活用例(びあっこのカスタマイズ)
HHKB Professional HYBRIDで初搭載されたキーマップ変更ツールはHHKB Studioで大きく強化されました。特に大きな変更点としては「プロファイル」機能の追加があります。これは配列をカスタマイズしたプロファイルを最大4つまで保存し、ショートカットキーで入力シーンに合わせて切り替えることのできる機能です。
今回はプロファイルを活用したソフトウェア側のびあっこのカスタマイズ例をご紹介します。
プロファイルでQWERTY配列をまるごと置き換え
このカスタマイズの最大の特徴は、アルファベット部分の配列を通常の「QWERTY」から「Eucalyn改」という独自の配列に変更している点です。
Eucalyn改配列は、キーボードのホームポジションからの移動量を少なくするため、ローマ字入力における母音を左手にまとめたローマ字入力に特化したEucalyn配列をベースとしています。またショートカットキーで多用するZ/X/C/V/AのキーはQWERTYと同じ位置に配置されているほか、vimのカーソルに相当するH/J/K/Lキーの位置関係が保存されていることが特徴です。
参考:https://biacco42.hatenablog.com/entry/2018/10/08/105404
このように、HHKB のキーマップ変更ツールではQWERTY自体の配列から大規模に改造された配列にも変更できるのが特徴です。プロファイル機能は最大4つまでプロファイルを保存できるため、QWERTY配列のプロファイルも同時に登録して、QWERTYが必要な際や他の人にHHKB Studio を渡すときにもすぐに対応できるようにしています。
WindowsとmacOSでは同じ機能が異なるキーに割り当てられているため、それらの細かい差を吸収するようにEucalyn改とQWERTYをそれぞれWindows/macOS向けのプロファイルで登録しています。
日本語配列の特徴を生かす
アルファベット以外にも、使用しているHHKB Studio日本語配列のスペースバーが短くキーが多い特徴を生かして、親指部分に多用するCtrl/Cmdキーをスペースバー右に配置し、Adobe系のツールで多用するAltはAの左隣に配置しています。 前述の通りHHKBのキーマップ変更ツールはHHKBの一部のキーを除いて全て変更可能なため、例えばキー数の多さや矢印キーを求めて日本語配列を購入し、記号類を英語配列に置き換えるようなカスタマイズも可能です。
レイヤーを活用し指の動きを最小化
またHHKB Studioは、マウスボタンの追加とともにレイヤーを最大4つまで追加することができます。レイヤーはプロファイルと異なり、Fn1 ~ Fn3(Fn3は工場出荷時には未設定)を押している間だけ有効になる配列で、数字や記号などレイヤーを切り替えながら頻繁に入力する際に有用です。
Fn1レイヤーには接続先変更のキーを割り当て、Fn2レイヤーには日常的に使用する仮想デスクトップのショートカットを割り当てています。
Fn3レイヤーは更に独特で、ホームポジションに近い位置に数字やF1 ~ F12キー、標準レイヤーのH/J/K/Lの箇所に矢印キーを配置しています。これにより、ホームポジションに置いた指が一般的なキーボードより1、2キー分短い指の動きでこれらのキーにアクセスすることができます。Eucalyn改の「指の動きを最小化する」思想に基づいた配置となっています。
マウスボタンの改造例(ぺかそのカスタマイズ)
続いて、ぺかそのHHKB Studioのカスタマイズをご紹介。
HHKB Studioはシリーズ初となるメカニカルスイッチを搭載したキーボードですが、同時に初搭載したポインティングスティックのマウスボタンも同様にメカニカルスイッチとなっていて交換することも可能です。
オリジナルのマウスボタンは本体と統一されたフラットで非常にシンプルなデザインになっています。もちろんそのままでも問題なく操作することができますが、せっかくなのでオリジナルのマウスボタンを作ってみました。
実はPFUはマウスボタンを含むキートップの3Dデータを公開しているので、これをもとにオリジナルのマウスボタンを設計することができます。
しかし自分でこれを設計した当時はまだ公開されていなかったため、自分で実物のキートップを採寸して設計しています。
マウスボタンに使用されているメカニカルスイッチは、ロープロファイルと呼ばれるHHKB Studioのキーボード部分のメカニカルスイッチより背が低いスイッチを使用しています。なのでキートップの形状は一般的なキーボードのキートップより平べったく、かつHHKB Studioのマウスボタンの面積に合わせて微調整を繰り返しました。
ノギスなどを用いてマウスボタンから計測した寸法を用いて3D CADで形状を組み立てます。HHKB Studioにもともと付属しているマウスボタンは、全てフラットで、左クリック、中央ボタン、右クリックとの境界も垂直な線で仕切られています。今回は中央ボタンの左右の仕切りを斜めに変更して、親指の収まりをよくする形状にしていきます。
寸法の調整が終わったら、自宅にある3Dプリンターで試作をしてみます。3DプリンターはFDMと呼ばれる方式の樹脂を熱で溶かして積層しながら出力するタイプのもので、キートップのような微細な形状を出力する用途には一般的には不向きです。メカニカルスイッチにはめ込む際にゆるすぎたりキツくて取り外せなくなったりするので難しいですが、今は形状確認用の試作なので専用のトリマーを使って手作業で削って装着します。
何度目かの微調整をおこなったのち、本番の形状を作り込んでいきます。HHKB Studioのフラットな形状を保ちつつ、左右クリックボタンと中央ボタンの境目をより目立たせるために某トラックポイントのテイストを加えた装飾にしました。
本番はMJFと呼ばれる方式の3Dプリントで外部の出力サービスで注文して行いました。FDM方式とは異なり粉末状の材料を熱で溶融させて作り上げている方式で、一般的な樹脂製品と遜色ない強度を持たせることができます。またその原理から表面にちょうど良い感じのシボがつくので、HHKB Studioに装着した際に見た目に大きな違和感なく使うことができて満足です。
ちなみに今回設計したマウスボタンのキートップは以下のページで販売をしています。
https://keyboardnews.booth.pm/
最後に
今回は二人のHHKB Studioのカスタマイズ例を紹介しました。そのままでもポテンシャルが非常に高いHHKB Studioですが、こういった「ユーザーに合わせた」カスタマイズ性の高さも魅力です。
HHKB Studioをお持ちでまだカスタマイズをしていないという方はぜひキーマップ変更ツールでの手軽なカスタマイズやキートップやメカニカルスイッチの見た目や打鍵感のカスタマイズを楽しんでみてください!
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