Happy Hacking Keyboard開発の発端となった、和田先生(現東京大学名誉教授)の論文を掲載しました。
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けん盤配列にも大いなる関心を
Please Pay Your Attention to the Keyboard Layout
東京大学工学部教授
和田 英一 Eiiti Wada
PFU Technical Review
Vol.3,No.1(Feb.1992)
pp.1 - 15
1.はじめに
ことし(1991 年)の初夏のころ教授室のワークステーションを Sun3 から Sparkstation2 にかえた。なかなかはやくて快適になったが、やはりいつも話題になるように、古い計算機と新しいのとのキーボードの配列に微妙な違いがあり、しばらくは憂欝な気分であった。使っているうちにどうやら慣れてはきたが、これは計算機のユーザーにとって大きな問題だと思う。せっかくこのような天下国家を論じる機会をいただいたのだから、今日はキーボードについてすこし書かせてほしい。
40年ほど前に登場してから今日まで、計算機はいろいろな面で、長足の進歩を遂げてきたが、一向にあい変わらないのがキーボードである。キーボードにはそれ以前にタイプライタとしての輝かしい歴史があったため、ほどんど確立されたアーキテクチャがあり、一方それを使う人間は全く進歩しないから、いつまでも昔のままでいるというのは判るような気もする。しかし、 不変というより悪化の方向にあるともいえる。要するに計算機メーカーはキーボードを何と思っているのか、その気がしれないのである。たしかに、一時代まえよりは、メカとしてのキーボードの性能は向上し、結構打ちやすくなったし、故障もすくない。しかしこの膨大なキーの数と、猫の目のようにかわる配置が問題なのである。
キーの数の極限は、ハッカー辞典 [1] にいう、スペースカデットキーボードである。つまりちょうど宇宙飛行士候補生が宇宙船のコックピットでたくさんの操縦装置を操作する時のように、使うべきキーのふんだんにあるキーボードのことで、具体的には、Symbolics の Lisp マシンをさす。
最近はマウス・メニュウ方式も大流行だが、そこでもファイル名を入力するにはキーボードを必要とする。キーボード主体の操作系(オペレーティングシステム)とマウス・メニュウ主体のそれを使い較べて感じるのは、キーボード派は今の作業が終了しないうちに次々のコマンドをかなり先まで打ち込んでおくことができるのに、マウス・メニュウ派は、メニュウが現れてくれないうちはなにもできないもどかしさがあるということだ。
またキーボードはなれてくるとかなり高速で打てるようになり、毎分なん文字打てるかの競争もできるが、マウス操作の方は競争がないことからも分かるように、キーボードの方が遥かに高速に入力できるのである。
これだけの比較で結論を出すつもりもないが、キーボードはまだ当分使われるようであり、計算機のメーカーでも充分検討する必要があり、ユーザーはタッチタイピングを覚えて決して損はない。
オランダの計算機科学者のファンデルプール先生は、計算機科学を学ぶに際しての第一の条件に"learn typing"をあげている [2]。 習うのはいいが、このとき障害になるのが、キーボードの配置である。
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