HHKB裏HISTORY 第四章 後編
製品刷新の次に変えたもの
―コロナ禍、ファンプロモーション、25周年、そしてStudio前夜 ―
前編では、HYBRID Type-S/HYBRID/Classicの誕生、2019年12月10日の発表会とユーザーミートアップvol.3、そして中国・深圳でのHHKBミートアップまでを振り返りました。新しいHHKBは、開発者、企画、販売、ユーザー、そして海外ファンの熱量を集めてスタートしました。
しかし、2019年の転換は、製品刷新だけにとどまりませんでした。HHKBチームはこのタイミングで、国内販売をPFUダイレクト中心へ大きく切り替え、それを補完する形でタッチ&トライの場を広げていきます。つまり後編で描くのは、新しいHHKBをどう商品化したかだけではなく、HHKBの届け方そのもの、すなわちビジネスモデルを大きく変化させていった歩みです。
さらにその直後、コロナ禍によってリモートワークが一気に広がり、仕事環境やデスク周りへの関心も大きく変化していきます。その流れの中で、HHKB Lifeやエバンジェリストの活動が始まり、25周年、雪モデル、リファービッシュ、レンタル、HHKBarといった取り組みへとつながっていきました。後編では、製品、販売、体験、メディア、ファンコミュニティが一体となり、HHKBが次のステージへ進んでいく過程を、当時の関係者の言葉でたどります。そしてその先には、第五章へと続くHHKB Studioの登場が待っていました。
■PFUダイレクト中心への大転換
2019年の新シリーズ投入と同時に、HHKBは販売モデルも大きく変えました。量販店や流通を中心とした販売から、PFUダイレクト(PFU公式オンラインショップ)を中心とするD2C型の販売へ。これは単にチャネルを減らす話ではなく、HHKBの価値をどう効果的に届けるかを再設計する取り組みでした。
山口 2019年はラインナップを刷新しただけでなく、このタイミングから、売り方、触ってもらい方、伝え方まで含めて、ビジネスモデルを大きく変えたということが非常に大きかったですね。製品の刷新と販売モデルの刷新を同じタイミングで実行したのは、かなり大きな決断でした。新シリーズをどう届けるかまで含めて、全体を組み替えた感覚があります。企画審議の最初の段階では、HYBRID Type-SだけをPFUダイレクトで売り、HYBRIDとClassicは流通に流すという考えもありました。でも、最終的には全モデルをPFUダイレクト中心に切り替えました。
轡田 HYBRID Type-Sだけならまだしも、全モデルをPFUダイレクト中心にするというのは相当大胆ですよね。社内でも議論はあったと思います。
山口 ありました。ただ、中途半端に一部だけ流通に残すと、結局ブランドの見え方や価格のコントロールが難しくなる。やるなら一気にやるしかないという判断でした。もちろん、以前から量販やAmazonで価格競争が起こっていました。自社ブランドとして適正な価格とユーザー体験をあるべき姿に落ち着かせる。そのために、ここで一気に直販に切り替えようという判断だったと記憶してます。
八野 当時、私はScanSnapの営業をしながらキーボードも担当していました。販売店に説明に行くと、新機種が出るという話には期待してもらえるんです。でも最後に「取り扱いはできません」と伝えなければならない。すごく難色を示されて、怒られた記憶があります。
そこで説明の仕方を変えました。新しい機種は出ます。ただし、PFUダイレクトと同じ価格で扱っていただく形になります、と。仕切り販売をしないという話はなかなか理解されにくかったのですが、その形で各販社さんに説明していきました。
山口 営業としては、かなり言いにくい話ですよね。長年お付き合いのある販売店に、期待させておいて「従来の形では扱えません」と言うわけですから。
八野 本当に胃が痛かったです。ただ、こちらもHHKBを存続させるための判断だということを、できるだけ丁寧に説明しました。怒られながらも、ブランドを守るためには必要なプロセスだったと思います。
それまでの商流を変えることは、社内外に説明が必要な大仕事です。販売店にとっては取り扱いの機会が変わり、営業にとっては長年の関係性の中で難しい説明をしなければならない。一方で、HHKBのように価格帯が高く、思想性の強い製品は、価格や説明のされ方がブランド価値に直結します。
■タッチ&トライスポットという「新しい売り場」
D2C化とは、販売を効率化するだけではありません。HHKBの価値を、メーカー自身の言葉で伝え、価格も体験もコントロールし、ユーザーと直接つながるための選択でした。ただし、PFUダイレクト中心に切り替えると、一つ大きな問題が生まれます。ユーザーが実機に触れる場所が減ることです。HHKBは、スペック表だけでは価値が伝わりにくい製品です。キーを押した瞬間の感触、サイズ感、配列、静音性、指の戻り。そうした体験は、触らなければ分かりません。
山口 量販店からなくなるということは、触ることもできなくなる。では、タッチ&トライスポットを作らなければならない、という話になりました。一方でブランド浸透の為には、Appleの売り場のように、置くならこのブランドの色で、この見せ方で、という世界観を作りたいという理想的な考えもありました。
轡田 ブランドガイドラインを作ったのも、その流れです。HHKBをどこに置いても、バラバラの見え方にならないようにする。Web、マニュアル、外観、展示の仕方まで、ブランドとして統一して見せる必要がありました。
山口 SUPER CLASSICや原価BARなど、HHKBの文脈と合う場所に置いてもらいました。ただの売り場ではなく、HHKBらしい空気の中で触ってもらう場所を作りたかったんです。
八野 SUPER CLASSICや原価BARなど、量販店とはまったく違う文脈ですよね。
山口 はい。単に台数を置ける場所ではなく、HHKBの世界観と相性がよい場所を選びました。触って終わりではなく、その場所の空気ごと体験してもらうイメージです。
轡田 ブランドガイドラインを作った意味もそこにあります。どこに置いてもHHKBらしく見えること。場所ごとの個性はありつつ、HHKBとしての見え方は揃える必要がありました。
タッチ&トライスポットは、量販店の棚を置き換えるものではありませんでした。むしろ、HHKBの価値を理解してくれるパートナーの場所に、HHKBらしい見せ方で置く。そこには、D2Cとリアル体験を両立させようとする試行錯誤がありました。この考え方は、後のコワーキングスペース展開、レンタル施策、ファンイベントへもつながっていきます。売り場を減らしたのではなく、体験の設計を変えた。2019年以降のHHKBのビジネスモデルは、ここから大きく変わっていきました。
■コロナ禍と、リモートワークが変えたHHKBの意味
2019年12月に新シリーズを発表した直後、世界はコロナ禍に入ります。タッチ&トライスポットやリアルイベントにとっては逆風でした。しかし同時に、在宅勤務、オンライン会議、自宅の作業環境への投資という流れが一気に広がり、HHKBの価値は新しい文脈で注目されるようになります。
山口 2019年12月に「さあ、これからだ」と思った直後にコロナ禍ですから、タッチ&トライやイベントを考えると、最初はかなり厳しい状況でしたよね。
八野 そうですね。せっかくリアルの接点を作ったのに、人が集まれない。原価BARもまさにその影響を受けました。ただ一方で、自宅で働く人が一気に増えて、HHKBそのものへの関心は強くなりました。
八野 原価BARにタッチ&トライを置いたと思ったら、すぐにコロナ禍になりました。飲食店に人が来にくくなるという意味では逆風でしたが、HHKBとScanSnapには逆に大きな需要が来ました。
山口 特にType-Sが良かったですね。オンライン会議中に打っても静か、という文脈にぴったり合いました。
八野 生産計画では、HYBRID Type-S、HYBRID、Classicの構成比をある程度分けていましたが、実際には8割から9割が最上位のHYBRID Type-Sにオーダーが集中しました。結果として欠品も起き、モデルミックスの見直しにも苦労しました。
山口 Type-Sへの集中は、こちらの想定を超えていましたね。最上位モデルがここまで選ばれるのか、という驚きがありました。
八野 価格が高いから分散すると思っていた部分もありました。でも在宅勤務で毎日使う道具になると、どうせ買うなら一番良いものを、という判断になる。そこは市場から教えられました。
自宅が仕事場になったことで、キーボードは単なる周辺機器ではなく、自分の仕事環境を整えるための中心的な道具になりました。オンライン会議の中で静かに打てること、長時間入力しても疲れにくいこと、机の上を圧迫しないこと。HYBRID Type-Sが持っていた特徴は、コロナ禍の働き方に強く合致しました。一方で、需要の急増は供給面の難しさも生みました。工場稼働、部品調達、モデルミックスの変更、欠品対応。新シリーズは市場の変化に乗った一方で、その変化の速さにチームは日々対応していくことになります。
■オウンドメディア「HHKB Life」とエバンジェリストの始動
コロナ禍でリアルの接点が制限される中、HHKBチームはオンラインでの情報発信とファンとのつながりを強化していきます。その象徴が、オウンドメディア「HHKB Life」と、HHKBエバンジェリストの立ち上げでした。
八野 2020年頃、部署の再編もあって、急にHHKBの販促をする人がいなくなったんです。山口さんが横に来て「HHKB、やってみる?」と言って、私が片手間かもしれませんがやりますよ、というところから始まりました。
轡田 「HHKB、やってみる?」という軽い一言に聞こえますが、受ける側からするとかなり重いですよね(笑)。
八野 重かったです(笑)。でも、やる人がいないならやるしかないという感じでした。最初は本当に少人数で、できることから一つずつ積み上げていきました。
では何からやるかとなった時に、ScanSnapのアンバサダー制度とは別に、HHKBではエバンジェリスト制度を立ち上げよう、オウンドメディアも立ち上げよう、という話になりました。最初の販促メンバーは本当に少なく、SNS担当と私、そして松本さんや山口さんのアドバイスを受けながら進めていった感覚です。
山口 コロナ禍でオンラインイベントのノウハウもたまりました。日本でやっていたオンラインのミートアップの経験が、米国のオンラインミートアップにもつながっていきました。
八野 この時期、YouTubeのレビューも一気に増えました。ガジェット系YouTuberの登竜門のように、毎日のように誰かがHHKBをレビューしてくれる時期がありました。YouTuberという存在自体が伸びていた時期でもあり、そこにうまく乗れた面もありました。
山口 YouTubeで毎日のようにHHKBのレビューが上がっていた時期は、見ていても勢いを感じました。
八野 ありがたかったですね。メーカーが説明するより、実際に使っている人が自分の言葉で語る方が伝わることも多い。エバンジェリストやHHKB Lifeにも通じる考え方だったと思います。
山口 エバンジェリストを始めたのも、まさにコロナ禍です。2020年12月にエバンジェリストを公開しました。第一期は、もともとScanSnapやHHKBの近くにいたブロガーさん、メディア関係者、影響力のある方々が中心でしたが、そこから徐々に広げていきました。
HHKB Lifeは、製品スペックを説明するサイトではありません。HHKBを使う人の仕事、暮らし、創作、こだわりを通じて、HHKBのある生活を伝える場です。メーカーが一方的に語るのではなく、ユーザーやクリエイター自身の言葉でHHKBを語ってもらう。第三章で始まったブロガーやインフルエンサーとの泥臭い関係づくりは、第四章でオウンドメディアとエバンジェリストという仕組みに進化しました。リアルイベントの熱狂を、オンライン上の継続的な接点へ。2019年12月に作られた熱は、コロナ禍を経て、HHKB Life、YouTube、エバンジェリスト、オンラインミートアップへと姿を変えていきます。
■25周年と「雪」モデル
2021年、HHKBは25周年を迎えます。コロナ禍の真っただ中ではありましたが、この時期の象徴的な企画が「雪」モデルでした。
八野 2021年、コロナの真っ盛りでしたが、ちょうど25周年を迎えました。この時に出した象徴的な商品が、雪モデルですね。
山口 25周年記念モデルは、商品企画部門の賜物だと思っています。雪の色をどう最後にフィックスさせるかは、かなり大変でしたよね。
八野 「雪」という名前は、HHKBとしてはかなり新鮮でしたよね。墨や白の硬派な世界観に、少し柔らかい言葉が入った。
轡田 そうですね。単に白いモデルではなく、HHKBらしい品のある白にしたかった。真っ白すぎると樹脂の質感や汚れの問題も出ますし、名前も含めて柔らかいけれど安っぽくならない落としどころを探しました。一方で、25周年に向けて、HHKBは男女比率に偏りがあるという課題もありました。いいものは男女問わず受け入れていただけるはずなので、少し柔らかい印象を持った特別モデルを作りたいという思いがありました。実績のある白系の方向で、柔らかく和モダンな名前を考えた時に、最後は「雪」にたどり着きました。ただ、真っ白というのは技術的にも難しい。傷、ホコリ、汚れ、耐候性、ケーブルの色など、細かな課題がたくさんありました。色そのものの権利関係にも気を配りながら、最終的にまとめていきました。
山口 雪モデルは大きな反響がありました。限定モデルを最後まで売り切ったのも早かったですね。
八野 雪は反響が分かりやすかったですね。これまでHHKBに少し距離を感じていた方にも、入口になる色だったと思います。
山口 従来のユーザーにも受け入れられましたし、新しいユーザーにも届いた。25周年の象徴として、非常に良い企画になったと思います。
HHKBといえば、墨や白という印象が強い製品です。その中で「雪」は、従来の硬派なイメージに、少し柔らかい表情を加える企画でした。単なるカラーバリエーションではなく、25周年の節目に、HHKBをより広いユーザーへ届けるための試みでもありました。この時期、HHKB Lifeの記事や「#HHKBのある生活」のSNS発信も広がり、HHKBはプロフェッショナルだけの道具から、こだわりを持って働き、暮らす人の道具へと少しずつ文脈を広げていきます。
■カルチャーとの接点、ファンイベントの深化
25周年前後には、HHKBが思いがけないカルチャー文脈とつながる場面もありました。その一つが、映画や映像制作との接点です。
山口 シン・ウルトラマンの話は印象的でした。コロナに入るもっと前、2018年か2019年頃に、撮影でHHKBを貸してほしいという話がサポート窓口経由で来ました。そこで貸し出していたものが、コロナ禍の影響で撮影が延び、すっかり忘れていた数年後に形になって戻ってきた感覚がありました。
八野 シン・ウルトラマンの話は、いい意味で「そんなところにHHKBが」という驚きがありましたね。
山口 そうなんです。こちらが仕掛けたというより、現場で使われる道具として自然に選ばれている感じがありました。そこがHHKBらしいと思います。
八野 HHKBは、気がつくといろいろな場所に置かれていることがありますよね。開発者やクリエイターが本当に使っている道具だから、自然に映り込む。そういう広がりも、HHKBらしいと思います。
山口 ユーザーミートアップもオンライン化を経て継続され、やがて少人数で個別開催したファン交流会の「HHKBar」のような、よりカジュアルで熱量の高いファン交流へとつながっていきましたね。HHKBは、製品発表の場だけでなく、ユーザー同士が語り合う場を持つブランドに育ちつつあると実感したのもこの時期ですね。そして、HHKBarは、ユーザーミートアップよりもさらに距離が近い感じがありましたね。大きな発表会ではなく、HHKBを囲んで濃い話をする場というか。
八野 そうですね。大人数のイベントとは違って、少人数だからこそ聞ける本音があります。ユーザー同士も自然につながっていくので、メーカー主催でありながら、かなりコミュニティに近い場になっていきました。
前編で描いた2019年12月10日のユーザーミートアップvol.3は、開発者、企画、販売、ユーザーが同じ場所に集まる象徴的な場でした。後編の時代には、その熱がオンライン、オウンドメディア、エバンジェリスト、カジュアルなファンイベントへと広がっていきます。
■リファービッシュとレンタル:入口を増やす挑戦
HHKBは高価格帯のキーボードです。興味はあるが、いきなり購入するにはハードルが高い。D2C化によって販売は直接化された一方で、「まず試したい」「少し安く入りたい」という新規ユーザーへの入口づくりが、次の課題になっていきます。
八野 リファービッシュは、Amazonで毎月かなりの台数が戻ってきてしまうことがきっかけでした。お客様の返品理由はさまざまで、色が違った、配列を間違えた、少し使って返す、といったケースがありました。Amazonの倉庫での単純なオペレーションミスによる入れ間違いなどもありました。
不良品ではないので廃棄もできない。ただ、在庫はたまっていく。そこで苦肉の策として、きちんと整備して再販売するリファービッシュを立ち上げました。スキャナーの修理センターがこの企画をうまく受け入れてくれたことも大きかったですね。
山口 リファービッシュは、言い方を間違えるとネガティブに聞こえますが、HHKBのようなロングライフ製品とは相性が良いですよ。
八野 はい。返品商品を社内活用するにも限界がある。状態の良いものを廃棄するのはもったいないですし、きちんと整備すれば十分に使っていただける。単なる返品処理ではなく、もう一度ユーザーに届けるエコな仕組みにできると思いました。
轡田 米国でもリファービッシュをやろうとした時期がありましたが、コロナ禍もあり、一度人の手に触れたものをもう一度売ることへのハードルがありました。清掃や衛生面の課題もあって、米国では最終的にやらなかった記憶があります。
山口 リファービッシュは、単に在庫を処分する施策ではありません。状態の良い製品を、きちんと検査・整備し、必要とするユーザーへ届け直す仕組みとポジティブに考えて体制を整備した記憶があります。ロングライフ製品であるHHKBにとって、製品を廃棄せず長く使ってもらうというサスティナブルでエコな考え方とも相性のよい取り組みでした。
八野 一方で新規ユーザーをどう獲得するかという課題もありました。新しいチャンネルをどう開拓するかを考えた時に、レンタル市場にチャレンジしてみようという話になりました。
一度、別のレンタル会社で検討したこともありました。ただ、PFUの在庫をその会社の倉庫に置かなければならないという話になり、棚卸などの運用が非常に大変になるのでやめました。その後、たまたま「ゲオあれこれレンタル」からお声掛けを頂いたことがきっかけでしたね。
山口 レンタルは、HHKBに興味はあるけれど価格で迷っている方には分かりやすい入口ですよね。
八野 そうですね。HHKBは触らないと分からない一方で、いきなり買うには高い。レンタルなら、まず自分の環境で試してもらえる。D2Cやタッチ&トライを更に補完する施策として、非常に意味がありました。
山口 オンラインとオフラインの両方の世界になってきた時に、タッチポイントの少なさがまた目立ってきていました。お試し利用を強化しなければならない、という流れの中で、ゲオに行き着いたんですよね。
八野 ゲオさんはすごく協力的でした。触ってから買いたい、まず試したいというユーザーに向けて、レンタルは新しい入口になりました。
D2C、タッチ&トライ、リファービッシュ、レンタル。これらは一見別々の施策に見えますが、根底には共通する考え方があります。HHKBをまだ知らない人、興味はあるが踏み切れない人に、どう出会ってもらうか。高価で、強い思想を持つ製品だからこそ、入り易い入口を用意する必要があったのです。
■そして、HHKB Studio前夜へ
2019年から2023年にかけての数年間は、HHKBにとって「第二創業期」とも言える時間でした。製品はHYBRID世代へ刷新され、販売はPFUダイレクト中心に変わり、タッチ&トライやレンタルで体験の入口を増やし、HHKB Lifeとエバンジェリストで語り方を変えていきました。
轡田 思い起こせば、2019年から25周年、そして30周年へ向かう間の期間を、皆さんと一緒に振り返れたのは良かったと思います。キーボードにとって、この5年間は第二創業期のような時期でした。世の中も変わり、HHKBも同時に変わっていった、非常に貴重で面白い5年間だったと思います。
山口 私はPFUダイレクトを2016年からやっていますが、Professional2の頃は毎月500台売れたら良かったねという時代も経験しました。BTも経験し、そしてHYBRIDでジャンプアップする瞬間に立ち会えた。HHKBの歴史の中でも大きな転換点を体感したという実感があります。辛いこともありましたが、楽しく、面白く、ワクワクした時期でした。
八野 2019年にローンチしたHHKB新シリーズは、HHKBを単に変えるためのものではありませんでした。むしろ「変わらない思想」を次の時代に届けるために、製品も、売り方も、ユーザーとの接点も「大きく変える」必要があったと理解しています。
轡田 今回振り返ってみると、2019年からの数年間は、製品、販売、プロモーション、コミュニティが一気に動いた時期でしたね。
山口 はい。どれか一つだけではここまでの変化にはならなかったと思います。HYBRID世代の製品力、D2C、タッチ&トライ、HHKB Life、エバンジェリスト。それぞれが重なって、HHKBの見え方が大きく変わりました。
八野 それでも、中心にある思想は変えていないんですよね。変わったように見えて、実は変えないために変えている。そのあたりが一番面白いところだと思います。
HHKBは、2019年に大きく変わりました。しかし、それは、HHKBの核を捨てるためではありません。変わらない思想を守るために、変えるべきところを変えた。第四章の物語は、その選択と実践の記録です。
そして次章では、従来のHHKBの枠をさらに大きく超える新たな挑戦、HHKB Studioへと物語は進んでいきます。
次回、第五章に続きます。
\HHKB裏HISTORY 第四章 前編はこちら/
\HHKB裏HISTORY 第一章 前編はこちら/
執筆者
松本秀樹
PFUにて、HHKB初代の立上げから30年間HHKBの事業化を推進してきたHHKB仕掛け人。いくどものHHKBの苦境・苦難にも立ち向かい、愛し育てたHHKBの守り人。現在はHHKBエバンジェリストを担当。F1、食、酒、旅、映画、美術、犬が好き。愛犬はミニチュアダックス。東京木場の生まれ。











