HHKB HISTORY ～HHKBの軌跡～
「静電容量無接点方式」の採用による高品位化
2003年5月、「HHKB」は大きなステップアップを果たしました。キースイッチに「静電容量無接点方式」を採用した最上位モデル『HHKB Professional』を発売したのです。静電容量無接点方式はキーボードにおける最上級のスイッチング方式の一つです。一般的なキーボードに多く採用されている「メンブレン方式」が電極端子を押しつけ、接触させることによって（有接点で）スイッチングするのに対し、静電容量無接点方式では円錐スプリングを押し下げることで発生する、電荷の容量値変化によって（無接点で）スイッチングします。後者のほうが理想的なキータッチの実現に向いていると同時に、接点がないためチャタリングが発生せず、耐久性にも優れているため高級キーボードにはうってつけです。『HHKB Professional』では押下圧を45gとし、長時間の使用でも疲れにくい、軽く爽快なタッチを実現しました。また、すべてのキートップ面を中央方向に向けた「シリンドリカルステップスカルプチャ」という設計も打鍵のしやすさに拍車をかけました。
「理想のキー配列」に加えて「理想のキータッチ」も兼ね備えた『HHKB Professional』は、「HHKB」がタイピングの質に意識的なすべてのユーザーのための、より高品位の道具へと進化したことを示すものでした。また、必要十分な数のキーを心地よく操ること自体に楽しさや喜びが存在することを、多くの人に伝えることのできるキーボードでもありました。ここに至って「HHKB」は、まさに前述の「カウボーイの馬の鞍」そのものになったともいえます。『HHKB Professional』はすでに「HHKB」を導入していたユーザーからも好意をもって受け入れられたほか、原稿執筆などの分野で長時間のタイピングを行うユーザーや、デジタルガジェットの純粋なファンの注目も集めました。そして以降は「HHKB」シリーズの本流を担う製品となり、現在に至っています。
『HHKB Professional』（左）と、2005年2月に発売された『HHKB Professional』墨モデル（右）。ともに2006年3月には『HHKB Professional2』へと進化した。
メンブレン方式が接点を押しつけて接触させるのに対して、静電容量無接点方式では円錐スプリングを押し下げ、電荷容量値を変化させてスイッチングする。耐久性も高く、3,000万回以上の打鍵に耐え得る。
エキスパートの要望に応える「無刻印モデル」
キータッチ追求の一方で、『HHKB Professional』では「HHKB」第一の特長であるキー配列に関係するトピックも生まれました。キートップに文字を印刷していない「無刻印モデル」の登場です。文字を排除した、レース専用のクルマを彷彿させる佇まいは衝撃的で、危険な雰囲気さえも漂わせていました。キーを逐一見る必要がないほど打鍵に熟達したエキスパートにしか使いこなせないという点は、ある意味で挑戦的でもあり、ユーザーの間で話題になりました。
この「無刻印モデル」は、キータッチ向上によってユーザーの幅を広げながらも、「HHKB」にはコンピューターのプロフェッショナルの哲学とプライドが変わることなく生きていることを示すものでした。熟達者の手指は理想のキー配列を求め、理想のキー配列はキーを見ない打鍵の実現を助けます。ユーザーと道具が一体化してこそのエキスパートであるという、プロのメッセージが「無刻印モデル」には込められています。この「無刻印モデル」は「HHKB」の象徴として現在もラインアップし、高い人気を獲得しています。
なお2004年10月、「HHKB」シリーズは「制御キーに焦点をあて、IT文具としてのキーボードのありかたを提案している姿勢」が評価され、「グッドデザイン賞」を受賞しました。一般的にはパソコンの付属物としてとらえられることの多いキーボードが、長く付き合える文具のような存在として見なされたことは画期的であり、プロレベルを目指した製品哲学が追認されたとうい意味でも特筆すべき出来事といえます。
『HHKB Professional2』無刻印モデル。エキスパートの証として現在も人気が高い。
