HHKB HISTORY ~HHKBの軌跡~
フレームがアルミ削り出し!
発売後10年を経た頃、「HHKB」に一つの「究極」を探る時期が到来しました。デジタルガジェットをはじめ、筆記具やデスク用品などのパーソナルな道具に対する一般の興味が高まり、身の回りの品はできるだけ優れたものを選びたいと考える人が増えてきたのです。究極のキーボードを世に問うにはうってつけの機会でした。ここで特別な受注生産モデルとしてシリーズに加わり、世の道具好きたちをあっといわせたのが『HHKB Professional HG / HG JAPAN』です。
それは驚くべきキーボードでした。フレームはなんとアルミ削り出し。剛性がこれ以上望めないほど高く、打鍵の力がすべてキーへと集中します。そのため静電容量無接点方式のキーとの相乗効果によって『HHKB Professional』の定評あるキータッチがさらに向上し、文字どおりの「究極」へと到達します。またキーボードの傾きを約1度単位で8段階に調整する機能も備えているため、自分だけのベストポジションでタイピングすることが可能です。この製品はキーボードの世界だけにとどまらない、パーソナルな道具の最高峰を目指した逸品でした。
『HHKB Professional HG』の標準モデル(白)と無刻印モデル(墨)。最上級モデル『HHKB Professional』のさらに上をいく完全オーダーメイドだった。
最高のコーティング剤としての「漆」
さらに『HHKB Professional HG JAPAN』には、誰もが「そこまでやるか」と驚き呆れるような仕様が採用されていました。「HHKB」の象徴である「無刻印モデル」のトップに君臨する機種として、すべてのキーに「漆塗り」が施されるのです。しかも、手作業でキーに漆を重ね塗りするのは、石川県輪島市の伝統工芸「輪島塗」の職人。まさに前代未聞のキーボードでした。
デジタルガジェットと漆は一見、ミスマッチに感じられるかもしれません。しかし漆は、あらゆる塗料の中でも最高の機能を有するコーティング剤です。その機能とは、抗菌性が極めて高いこと、吸湿性に優れていること、熱を伝えにくいこと、そして耐久性が非常に高いこと。つまり漆を塗ることによって毎日、長時間のタイピングを行っても「びくともしない」キーが出来上がるということで、このモデルは「究極」を目指してたどり着いた「頂点」ということができます。そしてプロのために誕生した「HHKB」には、道具としての究極を突き詰め、その頂点を一度は形にする必要がありました。
完全オーダーメイドで、キーボードとしては異例の高価格にもかかわらず、少なからぬ数の『HHKB Professional HG / HG JAPAN』が顧客のもとへと旅立っていきました。生産を終えた現在も道具好きの間で話題に上ることがしばしばある『HHKB Professional HG / HG JAPAN』は、文字どおりの「伝説のキーボード」です。
キートップの深い赤は、熟練の職人が合計10回もの塗りを繰り返して生まれる。
日本産の生漆を精製してから赤く着色し、人毛(女性の髪)の刷毛を用いて手早く、均等に塗っていく。石川県輪島市の「大徹漆器工房」にて。